神殺しのクロノスタシスⅣ
基本的には、後輩の言う通りだ。

魔導師は、一般人の為には魔法は使わないし、魔導師は魔導師だけのコミュニティを作って、彼らだけで知識を独占している。

その力を、民間の為に使うことはない…けれど。

「富裕層なら…一部の富裕層なら、魔導師の力を借りることが出来る。金を積めば…」

俺は、記憶にないはずの知識を口走っていた。

「それだよ。俺がどうしても腑に落ちないのは」

と、後輩は怒気を込めた声で言った。

「聞けば、金持ちの人間なら、病気や怪我をしても、魔導師に頼めば治してくれるそうじゃないか。きっと、そういう魔法もあるんだ。人の怪我や病気を治す魔法が」

勿論ある。

一般人には公表されていないだけで。

「だから、魔導師達は一部の富裕層にだけ媚を売って…奴らの為にだけは、魔法も使って…。そうやって、多額の金をせしめるんだ。これが、同じ人間のやることなのかよ?」

そうなんだろうな。

同じ人間だからこそ、そういう、欲望に素直なのだ。

地獄の沙汰も金次第、って言うしな。

魔導師が聖人君子ばかりだったら、それはそれで、人間ではないみたいじゃないか?

そう思ったが、勿論俺は口にすることは出来ない。

「苦しんでいる人を、助ける力があるのに…。魔導師の奴らは、金でしか動かない。貧乏人は黙って死ね、って言うのかよ?こんなのあんまりだ…」

…そんなに悔しいか。

そこまで患者に感情移入してしまうなら、お前は看護師に相応しくないだろうな。

彼女がいよいよ死を迎えたとき、お前は正気でいられるのか?

「…大丈夫か?」

と、俺は無意識に後輩を気遣っていた。

「あまり思い詰めない方が良い。…お前の責任じゃないんだから」

「あ、うん…。ごめん」

俺の言葉で、後輩は我に返ったようだった。

「先輩…先にステーションに戻っててくれるか。俺、看護師長に日誌を渡してくるから」

「分かった」

俺が頷くと、後輩は日誌を手に、看護師長とやらのもとに、歩き去っていった。
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