神殺しのクロノスタシスⅣ
「出てこられないのか」

『うーん…。無理みたい。ずっと試してるんだけど、どうも…行こうとしても弾かれると言うか…。拒絶されてる感じ』

拒絶…?

俺は拒絶しているつもりはないのだが。

「もしかして、俺のこの身体が、お前を拒否しているのか?」

『君本人の問題じゃなくて、その世界そのものに拒絶されてるのかな?』

世界?

確かにこの世界では、一般人にまで魔法の概念が広まっていないようだが…。

そのせいか?魔導師の数が少なく、魔力を持つ人間も少ないから、月読が出てこられないのか?

…いや、待て。それは関係ない。

「俺はずっと、これまでも…様々な次元の世界を転々としてきた。そうだな?」

『…何で確認口調なの?今更確認しなくても、そうだよ』

やはり、そうなのか。

自分が何者なのか、ようやくはっきりと確信が持てた。

『もしかして君、記憶喪失なの?』

「いや…今、思い出した」

『今って…。じゃあ、これまでは忘れてたの?この世界に来てから、私を呼ばなかったのもそのせい?』

「最初はそうだった。自分が何をしているのか分からなかったが…段々と思い出した」

それに、目覚めた瞬間医療チームのメンバーに囲まれていたし。

後輩も傍についていたから、月読に声をかけることが出来なかった。

そもそも、身体が思うように動かないからな。

「今ははっきり思い出した。自分が何者なのか」

俺は魔導師で、そして『死火』の守り人なのだ。

…しかし。

「何故身体が思うように動かないのか、お前が出てこられないのかは分からない」

俺はこれまでも、様々な世界を転々としてきたはずだ。

その中には、魔法の概念が全くない世界もあった。

そんな世界でも、関係なく月読は俺の前に出てきていたし、月読が世界に拒絶されるようなことはなかった。

一体、どうしてこんなことに…。

『それは私にも分からないけど…。でも、十中八九、アレのせいじゃないの?』

「…アレ?」

というのは、何のことだ。

月読には、覚えがあるのか?

『…え?君、もしかして覚えてないの?』

「…何を?」

『そもそもおかしいでしょ。君が何で、看護師なんてやってるの?白衣全然似合ってなくてびっくりだよ』

それは悪かったな。

言っておくが、これは俺の意志でやってるんじゃない。
< 249 / 795 >

この作品をシェア

pagetop