神殺しのクロノスタシスⅣ
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羽久もどきの顔が、驚いたまま固まり。

そして、どろどろと溶けるように消えてなくなった。

羽久もどきだけじゃない。

舞台にいた全ての、「もどき」さん達が…同じく、消えていった。

それどころか、劇場内も。

気づいたときには、最初に見たときより、ずっと狭くなっていた。

…ようやく、ボロを出したか。

「…出ておいでよ。見てるんでしょう?」

こうなった以上。

もう、見て見ぬ振りは出来ないはずだ。

観念して姿を現すと良い。私の前に。

「…何故だ?どうなっている…?」

もどき達が消えた舞台の上に、知らない人が立っていた。

…あぁ、君がそうなのか。

「ようやく姿を見せたね…。君が、この異次元世界の主なんだね?」

「おかしい…!こんなはず、こんなはずは…!」

その慌てっぷりを見るに、どうやら彼が、この異次元世界の作り主らしい。

「何故だ…!こんなはずはない!何なんだお前は!?何故そんなものを持ち込めた!?」

そんなもの?

そんなものって言うのは、私が持ってるこのナイフのことかな。

「持ってきたんだよ。本物のナイフのように見えるけど…実はこれ、魔法で作ったものなんだけどね」

「何故だ!?この世界は、魔封じの石で作ったものだ!魔法は使えないはずだろう!」

「魔法は使えないけど、魔法で作った武器は消えない。私の特製武器だしね」

「そんな馬鹿な…!」

うん、その絶望感は分かる。

だけど、私だって無策でこんなところに飛び込んできたりはしない。

「何故だ…。何でこんなことが…!この世界は、お前の傷口を抉る為に…」

やっぱりそうだったんだ。

つまりここは、私のトラウマ世界だったんだね。

「お前の心を折る為に、作られた世界のはずだ。なのに、お前は何故平気でいられる…!?」

へぇ、平気でいるように見えるんだ。今の私。

「大丈夫だよ、平気じゃないから。ちゃんと痛いところに届いてるよ」

「なら、何故…!?」

「それは勿論、ちゃんと心構えをしてきたからね。確かに痛いところは突いてきたけど、でも全部偽物だって分かってる」

さっきまでのは、全部偽物だからね。

いや、全部偽物は言い過ぎか。

半分は真実だろうね。皆口にしないだけで、心の何処かでは思ってるだろうし。

それは紛れもない事実だ。

だから勿論、ちゃんと、それなりに傷ついたよ。

羽久もどきの毒舌なんて、もう泣きたくなりそうだった。

…けど。

「その程度で…私は揺らがないよ」

ちょっと、強がってはいるものの。

でも私は、その程度では心を折られたりしない。

偽物の羽久に、何を言われたって…それは偽物の言葉に過ぎない。

あれが本物だったら泣いてた。

「さぁ、魔封じの石を返してもらおうか。君が持ってるんだろう?」

「…っ」

狼狽える青年。

やっぱり持ってるんだ。

じゃあ、あとは没収するだけだね。

…しかし。
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