神殺しのクロノスタシスⅣ
集団リンチに遭った記憶は…ない…んですが。

そもそも、僕はここに来る前後、何してたんだっけ?

不味いですね。

本当に、記憶喪失者みたいになってる。

ここは何処?僕は誰?みたいな…。

僕はナジュですけどね。

何だか僕、前も記憶喪失になったことがあるような気がするんですが…。

僕の趣味、記憶喪失?

…そんな趣味は嫌ですね。

とりあえず、自分の名前くらいは分かっているようで良かった。

そしてもう一つ、忘れようと思っても忘れられない存在がいる…。

それだけ覚えていれば、他に何を忘れていても無問題か…と。

思っていると。

先程の幼女が、母親らしき人物を連れて戻ってきた。

「まぁ、良かった。目を覚まされたのですね」

にこりと人の良い笑顔で。
 
ご婦人は、僕の傍らに座った。

「大丈夫ですか?まだ起き上がらない方が良いですよ」

「あ、いえ…」

それは、別に良いんですけど…。

「身体中傷だらけだったんですから、どうか、まだ横になっていてください。無理して起きたら治るものも治りませんよ」

半ば強引に、布団に横たわらせられた。

別に気にしなくて大丈夫なのに。

だって僕は、いくら怪我しても…。

…あれ?

怪我しても、何だっけ?

いくら怪我しても良いなんて、そんなはずないのに。僕は何を言ってるんだ。

…ともかく。

状況を把握したい。今は。

「あの…ここは…?」

まずは、現在地から尋ねてみる。

「○○地方の、小さな村ですよ」

全く分かりません。

ダンジョンで迷子になった気分。

僕は何処から来て、このダンジョンに迷い込んだんだろう?

「あなたの故郷は?一体どちらから?やはり、山の上の集落ですか?」

山の上?

何処だ。山あるのか、この近く。

「それがその…実は…よく分からないんです」

「え?」

ここは、取り繕わずに正直に言った方が良いだろう。

記憶喪失の行き倒れ(?)なんて、そんなどう考えても訳ありな人間を、村の中に匿いたい者がいるはずはない。

だから、僕が身の安全を確保するには、適当でも良いから、何かしら作り話を用意した方が良いのかもしれない。

作り話…出来ないことはないですしね。

でも、今は。

下手な作り話より、正直に打ち明けた方が良いだろう。

僕自身のことさえ、今は分からないことが多過ぎるのだ。

少しでも、この人達から情報を得た方が良い。

それに、もし作り話がバレたら余計怪しまれるに決まってる。

まぁ、正直に言っても、普通に怪しまれるでしょうけど。

自称記憶喪失なんて、誰が無邪気に信用する?
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