神殺しのクロノスタシスⅣ
…あぁ。
この人だったんだ。
俺は、直感でそう理解した。
俺が追体験させられた人生は、この人のものだったんだ。
「あの後を教えてやろうか?…母親は借金を全部俺に押し付けて、自殺した。俺はあれからずっと、多額の借金を返す為に、昼も夜も働き通しさ」
「…」
「劣悪な職場で、安い給料で扱き使われて…その結果が、これだよ」
彼は、自分の右腕を突き出した。
彼には、肘から先がなかった。
「職場で使ってた機会が壊れて、押し潰されたんだ。会社は事故を隠蔽して、俺は泣き寝入りだ。この腕じゃ、もうまともに働くことも出来ない。でも借金は消えない。教えてくれよ。俺はどうしたら良いんだ?」
「…」
「俺が何をしたって言うんだ?なぁ。俺が何を悪いことをしたんだよ?何で、俺がこんな目に遭わなきゃならない?」
…それは。
「それは…気の毒だと思うよ。同情に値すると思う」
当事者じゃない、ただ彼の記憶を追体験させられただけの俺でも分かる。
彼の苦労。彼の気持ち。行き場のない怒り。悲しみ。
想像しただけで、酷く辛いものだったんだと分かる。
しかし。
「それが、何で俺達を攻撃する理由になる?何で君は…『サンクチュアリ』に入った?」
「…魔導師の存在を知ったからだよ」
彼は、残っている方の左手で、一冊の本を放り投げた。
『魔導師の未来と可能性』。そんなタイトルだった。
「俺が高校を中退して十年後だった。それまでインチキ占い師扱いだった奴らが、世界で魔導師として認められ始めた…」
「…」
「その本が、魔導師の発刊した初のベストセラーだ。凄いことが書いてあるんだよ。知ってるか…?魔導師は、飯を食う必要はない。傷も治せるし、水を出して火も消せる」
…その通りだ。
「こんな理不尽なことって、あるかよ?」
…。
「そこに書いてあったよ。『努力は必ず報われる。これまで認められなかった魔導師が、昨今ようやく認められたように。』だってさ。へぇ?じゃあ俺が味わったのは何だ?」
…。
「俺の努力が報われたことが、一度でもあったか?認められたことがあったか?俺がいくら努力しようが、魔導師の前には、全く力が及ばない」
…。
「俺のこの腕。俺は命懸けで働いたっていうのに、今では手作業で行うのは危険だからって、全部魔導師が魔法でやってるんだと。魔導師の仕事なんだってよ。杖一つ振ってれば、それで仕事になるらしい。万が一怪我をしても、魔導師が治してくれるらしい」
…。
「俺は、片腕でも出来る仕事を見つけたよ。でもその仕事も、あっさりクビになった。何でか分かるか…?俺みたいな出来損ないより、魔導師一人を雇った方が、余程金になるからだ」
…。
「俺達一般人が汗水垂らして、血も涙も流して、生きる為に必死で喘いでるのに…魔導師は何だよ?散々持て囃されて、魔導師様なんて呼ばれて。杖振ってるだけの癖に『努力は報われる』なんて、よく言えたもんだよな」
…。
「お前らは知らないんだろ。俺みたいな人間の気持ちは。無力で、非力で、今日一日を生きていくだけでも必死な人間の気持ちは!」
…。
…だから。
「だから、復讐したかったのか」
それが、この人の…「犯行動機」だったのか。
この人だったんだ。
俺は、直感でそう理解した。
俺が追体験させられた人生は、この人のものだったんだ。
「あの後を教えてやろうか?…母親は借金を全部俺に押し付けて、自殺した。俺はあれからずっと、多額の借金を返す為に、昼も夜も働き通しさ」
「…」
「劣悪な職場で、安い給料で扱き使われて…その結果が、これだよ」
彼は、自分の右腕を突き出した。
彼には、肘から先がなかった。
「職場で使ってた機会が壊れて、押し潰されたんだ。会社は事故を隠蔽して、俺は泣き寝入りだ。この腕じゃ、もうまともに働くことも出来ない。でも借金は消えない。教えてくれよ。俺はどうしたら良いんだ?」
「…」
「俺が何をしたって言うんだ?なぁ。俺が何を悪いことをしたんだよ?何で、俺がこんな目に遭わなきゃならない?」
…それは。
「それは…気の毒だと思うよ。同情に値すると思う」
当事者じゃない、ただ彼の記憶を追体験させられただけの俺でも分かる。
彼の苦労。彼の気持ち。行き場のない怒り。悲しみ。
想像しただけで、酷く辛いものだったんだと分かる。
しかし。
「それが、何で俺達を攻撃する理由になる?何で君は…『サンクチュアリ』に入った?」
「…魔導師の存在を知ったからだよ」
彼は、残っている方の左手で、一冊の本を放り投げた。
『魔導師の未来と可能性』。そんなタイトルだった。
「俺が高校を中退して十年後だった。それまでインチキ占い師扱いだった奴らが、世界で魔導師として認められ始めた…」
「…」
「その本が、魔導師の発刊した初のベストセラーだ。凄いことが書いてあるんだよ。知ってるか…?魔導師は、飯を食う必要はない。傷も治せるし、水を出して火も消せる」
…その通りだ。
「こんな理不尽なことって、あるかよ?」
…。
「そこに書いてあったよ。『努力は必ず報われる。これまで認められなかった魔導師が、昨今ようやく認められたように。』だってさ。へぇ?じゃあ俺が味わったのは何だ?」
…。
「俺の努力が報われたことが、一度でもあったか?認められたことがあったか?俺がいくら努力しようが、魔導師の前には、全く力が及ばない」
…。
「俺のこの腕。俺は命懸けで働いたっていうのに、今では手作業で行うのは危険だからって、全部魔導師が魔法でやってるんだと。魔導師の仕事なんだってよ。杖一つ振ってれば、それで仕事になるらしい。万が一怪我をしても、魔導師が治してくれるらしい」
…。
「俺は、片腕でも出来る仕事を見つけたよ。でもその仕事も、あっさりクビになった。何でか分かるか…?俺みたいな出来損ないより、魔導師一人を雇った方が、余程金になるからだ」
…。
「俺達一般人が汗水垂らして、血も涙も流して、生きる為に必死で喘いでるのに…魔導師は何だよ?散々持て囃されて、魔導師様なんて呼ばれて。杖振ってるだけの癖に『努力は報われる』なんて、よく言えたもんだよな」
…。
「お前らは知らないんだろ。俺みたいな人間の気持ちは。無力で、非力で、今日一日を生きていくだけでも必死な人間の気持ちは!」
…。
…だから。
「だから、復讐したかったのか」
それが、この人の…「犯行動機」だったのか。