神殺しのクロノスタシスⅣ
そして、何より俺達は看護師という、医療に携わる職種なんだろう?

酷いことを言うようだが…医療に携わる者なら、患者が一人亡くなったくらいで…取り乱してはいけない。

この病院では、毎日のように誰かしらが死んでいる。

少女一人だけではない。

だから俺達は、少女が一人亡くなったくらいで…同情して泣いたりしてはいけないのだ。

しかし、そう簡単に割り切れないのが人の情と言うもの。

だからこそ後輩は泣いているし、納得することも出来ないでいる。

…まぁ、無理もないか。

昨日まで…こんなにいきなり亡くなるとは、誰も思っていなかった。

彼女に死の兆候は見られなかった。

本当に、突然の死だったのだ。

「うっ…うぅっ…」

「…」

ベッドに縋り付くように啜り泣く後輩を、俺はしばし見つめていたが。

やがて、俺は後ろを振り向いた。

さっきからずっと、視線を感じていた。

誰かの視線。

俺はずっと、この世界を、誰かの人生の追体験だと思っていた。

問題は、それが誰の人生か、という点だ。

あまりに短い人生を、病院という小さな世界しか知らず終えた、この少女か。

それとも、そんな少女の傍らで、誰よりも寄り添ってきた…ここで慟哭している、この後輩か。

そのどちらかだろう、と。

後者だと思っていたが、どうやら違っていたようだ。

「…お前は、この娘の兄か」

「…そうだ」

少女の、本物の「お兄ちゃん」。

少女が最後に、描きかけの似顔絵を残していた。

月に一度かニ度しか、顔を見せることが出来ず。

しかしそれでも、遠く離れていながら、誰よりも少女のことを思い続けていた存在。

そして少女もまた、この兄のことを一番慕っていた…。

だからお前は、俺にこの世界を見せたのだろう?

自分の最愛の妹が、どのような末路を辿ったのかを。

「…俺の無念が。妹の無念がどれほどのものだったか、お前に分かるか?」

彼は、憎しみのこもった目でこちらを睨んだ。
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