神殺しのクロノスタシスⅣ
日を追うに連れ、確実に弱っていた少女。

しかしそれでも、彼女の寿命は、まだ僅かばかりの余裕があるはずだった。

少なくとも、医療スタッフ達はそう思っていた。

まだ大丈夫、まだ持ちこたえられる、と。

少女本人も、まだ自分に迫る死への恐怖はそれほどでもなく。

兄の似顔絵を描いたら、次は他の医療スタッフの似顔絵を描いてあげるのだと、つい昨日、笑顔でそう話していた。

彼女には、明日があると思っていた。

少なくとも、他の医療スタッフの似顔絵を描くだけの時間はあると。

でも…蓋を開けてみると、そんなものは何処にもなかった。

現実はそれほど優しくなかった。

少女は今朝、起床時間を迎えた頃から、体調を崩していた。

倦怠感を訴え、熱を測ると微熱だった。

これまでも、このような症状は度々見られた。

だから今回も、いつもの発作が出たのだろうと思った。薬を飲ませ、点滴を打って、今日一日はゆっくり休んでいるように言った。

いつもなら、発作は一日〜二日で収まるはずだった。

朝様子を訪ねたときも、疲れた顔をしていたものの、ちゃんと喋っていたし、笑顔も見せていた。

発作が収まったら、そこに置いてある本を読むから、勝手に持っていかないでね、なんて笑っていた。

俺も後輩も、笑顔で返していた。

しかし。

正午前に、容態が急変した。

少女の病室から、異常を知らせる警報が鳴らされ。

俺達が駆けつけてみると、少女は既に意識が混濁しており、半ば昏睡状態にあった。

すぐに彼女を集中治療室に移し、医師が処置を施したが。

俺達の懸命の努力を嘲笑うように、少女の容態は急激に悪化した。

とうとう少女は意識不明になり、そして、そのまま意識が戻ることはなかった。

永遠に、彼女は旅立ってしまったのだ。

本当に急なことで、唐突なことで…それでも、医療の世界では、このようなことは珍しくなかった。

だから、医師も、他の医療スタッフ達も、悲しみに暮れてはいたが、取り乱すようなことはなかった。

一人取り乱していたのは、俺の後輩だった。

無理もない。

他の医療スタッフと違って、俺とこの後輩は、誰より長く亡くなった少女と同じ時間を過ごしていた。

少女が一番心を許しているスタッフは、俺と後輩だった。

医療チームの全員が、それを知っていた。

だから、後輩が悲しみに泣いていても、誰も咎めるようなことはなかった。

むしろ、当然だという目で見ていた。

それなら、俺も泣かないとおかしいな。

後輩と同じくらい、俺も少女との関わりは深かったのだから。

しかし、俺の目から涙は溢れなかった。

俺の身体ではないのだから、俺がいくら悲しもうと涙が出ないのは当たり前なのだが。

例えこの身体が、本物の俺の身体だったとしても、涙か出ることはなかっただろう。

生き物である以上、いつか死ぬのは当然だ。

少女は死んであの世に行ったことで、これ以上苦しむ必要はなくなったのだ。

そう思えば、少しは報われる…。
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