神殺しのクロノスタシスⅣ
「何故、俺を憎む?彼女を殺したのは、彼女自身の運命だ。誰の責任でもない」

医療チームは、彼女の為に出来る最良の医療を提供した。

出来るだけのことをした。

誰も手を抜いたりはしなかった。

それでも少女が死んだのは、それが少女の変えられない運命だったからだ。

だから、誰かを憎む必要はないはずだ。

…しかし。

「お前は知らないだろうな。俺はその頃…妹を医療魔導師に診せる為に、手を尽くしていたんだ」

あぁ。

その言葉で、全て理解した。

そういうことか。俺達魔導師に憎しみが向いたのは、そのせいか。

「俺は何としても、妹を医療専門の魔導師に診せてやりたかった。その為に、昼夜問わず働いて、金を稼いできたんだ」

「…」

「どんなに大変だったか分かるか?一般人はな、生きるだけで大変なんだよ。食事をしなきゃならないし、睡眠を取らなきゃならない。怪我をしても、簡単には治らないんだ」

…そうだろうな。

それが、人間の性だ。

それから、魔導師にも睡眠は必要だし、怪我も簡単に治る訳ではない。

一般人より治癒能力が高いのは確かだが。

「それだけでも金が必要だ。そこから、妹を魔導師に診せる為の費用を、何とか捻出しなきゃならない」

…。

「魔導師の奴らは、馬鹿みたいな金額を提示してきたよ。びた一文、値下げには応じないそうだ。この病院の治療費なんか、可愛く思えるほどの高額だった」

…。

…この世界では、魔導師による治療は、一部の特権階級しか受けられない高額医療なんだったな。

「憎かったよ。魔導師なんて、生きていくのに大して金は必要ないはずだ。なら、患者から巻き上げたその金は何に使う?自分が遊ぶ為、自分の権威を守る為だろう?」

…それは知らないが。

この世界の魔導師は、それが一般的なのかもしれない。

「お前達の見栄と欲を満たす為の金を、それでも俺は必死に工面しようと頑張ったよ。そうでもしなきゃ、妹を救えないんだから。その為なら、魔導師に貢いでも良いと思った。…それなのに」

間に合わなかった、か。

しかし、現実はもっと厳しいものだった。

「妹があんなに早く亡くなるなんて、それは想定外だった。それは仕方ないと思う。…でも、妹が死ぬ前に一度、俺は魔導師に言われた額を用意して、妹を診てもらうよう頼みに行ったんだ」

そうだったのか。

それは知らなかった。

なら、少女は医療魔導師の診察を受けているはずでは…。

「でも、門前払いだったよ。今は他に金持ちの患者が来てるから、その患者が優先なんだそうだ」

「…」

「金持ちの患者が、俺の妹より重症なら、まだ分かる。でもその金持ちの患者は、大した怪我じゃなかった。普通の病院でも治るような怪我だった。それなのに魔導師の奴らは、軽症の金持ちを優先して、貧乏人の俺の妹を後回しにすると言ったんだ」

…そうか。

醜いものだな。人間の欲望と言うのは。

「そのせいで、結局妹は間に合わなかった」

…。

「お前達にとって、魔法は金稼ぎの道具でしかなかった訳だ。人を助けようなんて気はまるでない。金持ちにだけ媚を売って、貧乏人は後回し」

…。

…地獄の沙汰も金次第、っていう言葉もあることだしな。

「妹は見捨てられたんだ。助けられる命だったのに。欲深い魔導師のせいで」

…。

…そうだな。 

その通りなのかもしれない。
< 404 / 795 >

この作品をシェア

pagetop