神殺しのクロノスタシスⅣ
ウェディングドレスに身を包み、ベールで顔を隠したベリクリーデは。

それはもう、見た目だけならバッチリ、白雪姫もかくやという美しさだが。

しかし、忘れてはならない。

ベリクリーデは、ベリクリーデである。

あいつにあんな裾の長い服を着せたら、三歩と歩かずすっ転ぶ。

賭けても良い。

一歩目はかろうじて進み、二歩目で躓き、三歩目で転ぶ。間違いない。

とてもではないが、祭壇にやって来るどころではない。

よって。

ベリクリーデの両脇に、シルナ・エインリーとシュニィが控えて、全力で支えながら歩かせることになった。

ついでに、歩く速度も、通常よりずっと遅くした。

それから、普通なら、花嫁はヒールのある靴を履くのだろうが。

今日のベリクリーデは、ぺったんこの靴を履いている。

どうせ、ドレスのひらひらで足元は見えないから、大丈夫大丈夫。

超のろのろ入場で、場が白けること必至だが。

それでも、転ぶよりはマシだ。

転んだら全てが台無しだからな。ちゃんと歩いてくれよ。

下を向いてても良いから。くれぐれも気をつけて歩いてくれ。

俺は、子供の発表会を見守る親のような気持ちで、ヴァージンロードを歩くベリクリーデを見つめていた。

ロマンの欠片もない。

だが、超低速歩行と、左右で懸命に支えているシルナとシュニィのお陰で。

何とかベリクリーデは、転ばずに祭壇付近まで辿り着いた。

よし、良い感じ。もうちょっと。

何だかオレンジ小人の顔が、段々白けてきてるのが気になるが。

仕方ないだろ。これでも苦労してんだよ。

「よし、ベリクリーデ、よくき、」

ここまで来れば一安心とばかりに、手を伸ばしてベリクリーデを迎えようとした、

そのとき。

ゴールに辿り着いて、気が抜けたのか。

恐れていたことが起きた。

「あ」 

「ばっ…!」

ドレスの裾を踏んづけたベリクリーデが、前倒しにつんのめる。

スローモーションのように倒れかけるベリクリーデを、慌てて左右から、シルナとシュニィが支えようとした。

が、もう遅い。

このままでは倒れると判断した俺は咄嗟に手を伸ばし。

倒れるベリクリーデの腰に片手を回し、もう片方の手を膝の下に滑り込ませて、ぐいっと持ち上げた。

所謂、お姫様抱っこ状態。

ここに来て、咄嗟のファインプレー。

さも、そういう予定でしたみたいな涼しい顔で、ひょいっとベリクリーデを抱き上げて、祭壇の上に立たせる。

余裕ぶった顔をしているが、内心心臓はバクバクである。

ベリクリーデも、きょとんとしていた。

バレたか?アドリブだって、バレてないよな?

チラリと、オレンジ小人に目をやると。

なんてロマンチック、とばかりに目をキラキラさせていた。

あいつがチョロい奴で助かったよ。

とりあえず、九死に一生を得た。
< 589 / 795 >

この作品をシェア

pagetop