神殺しのクロノスタシスⅣ
外を歩けば、何故か僕の上にだけ雨雲がかかり。

最初は小雨だったそれは、今では雷を伴う雷雨。

対策にと思って雨傘を差したら、突風で傘が裏返って骨組みだけになり。

ならばと思って雨合羽を着たら、風に流されて飛んできた石の破片で、雨合羽を切り裂かれ。

それどころか、僕だけ強風に煽られて、すっ転んで頭をぶつける始末。

階段から落ちる、階段を踏み外すなんてのは序の口で。

空から植木鉢は降ってくるし、地面を歩けば釘を踏み抜く。

あれは痛かったよ。

労いに、と学院長先生にもらったチョコレートは、何故かチョコレートによく似た食品サンプルで、歯が欠けるかと思った。

今日ここに来るまでにも、道中、自転車に撥ねられ。溝に足を突っ込み。庭を掃除していたおばさんに、ホースで水をかけられ。

そんな姿を、通りすがりの小学生に指を差して笑われるまでが、ワンセット。

もう、何て言うか。

ここ十年分の不幸を、数日で味わってる気分。

いっそ泣きたいが、泣いたところで七日間の期限が終わる訳でもなし。

それに、初日に比べて、段々と不幸の度合いが大きくなっているのだ。

これから最終日に向けて、どんな不幸が待っているのかと思うと…こんなところで泣いてはいられない。

最後は何が来るんだろう?家が火事で燃えるとか?

とにかく、人に迷惑をかけない不幸であるなら、何でも良い。

「あとは…エリュティア、お前だけなんだがな…」

「うん…。エリュティア君も、早く解放されて欲しいよ…」

羽久さんと学院長先生が、憐れな者を見る目で僕を見た。

「いや、良いんですよ…。僕は大丈夫です」

強がりではなく、本当に大丈夫だ。

それどころか、今、クュルナさんが先に契約を終えたと聞いて、ホッとしているところだ。

ここ数日悪いことしかなかったけど、初めて良いニュースを聞いた。

クュルナさんに比べれば、僕は随分気が楽だ。

だって僕の場合、不幸になるのは僕だけだから。

クュルナさんみたいに、羽久さんを巻き込まないで済む。

僕の不幸は、僕だけのもの。

僕一人が我慢して耐えていれば、それで良い。誰にも迷惑はかけない。

僕が七日間耐えきれば、それで終了なのだ。

そう思えば、死ぬかもしれない恐怖と戦いながら、喜びの小人を満足させなければならなかったジュリスさんや。

自分のせいで羽久さんが傷つくことになったクュルナさんよりかは、ずっと僕は楽だ。
< 616 / 795 >

この作品をシェア

pagetop