神殺しのクロノスタシスⅣ
「僕は…保健室を利用しなきゃならない生徒を、一人でも減らす、というのが夢です」

ほら。

良いこと言ってんなぁ、天音。

「その為に、生徒に体力をつけ、生徒の健康を守りたいと思います」

「具体的にはどうするんですか?」

と、尋ねるイレース。

これから言うんだよきっと。そんな急かしてやるなって。

「具体的には…これから冬場を迎えるに当たって、生徒達が風邪を引かないように、手洗いうがいを徹底して…」

「…」

「休憩時間には必ず窓を開けて、換気。これを習慣づけることで、風邪を引かないよう対策します。それから、もし体調を崩してしまったときはすぐに保健室に来られるよう、生徒個々人の体調管理を進めて…」

「…」

「生徒一人一人が、自分の体調に気を遣う習慣をつけること。これを生徒に促すよう、養護教員として積極的に進めていきたいと思ってます」

…成程。

その思いは、しかと聞き届けた。

めちゃくちゃ良い夢じゃないか。

全国の保健室の先生に、模範として聞かせたいくらい。

さすが天音…。我がイーニシュフェルト魔導学院、唯一の良心だ。

「え?唯一って何ですか。僕だって良心の塊では?」

自称イケメンカリスマ教師である邪心の塊が、何かほざいている気がしたが。

多分空耳だな。

「へぇ〜。…天音君も、良い夢だなぁ」

シルナも感心している。

な?天音って良い奴なんだよ。

生徒の健康を何より考えている、全く保健室の先生の鑑…。

…だと、俺は思ったが。

「…甘いですね」

「えっ…」

鬼教官イレースは、厳しかった。

天音の素敵な将来の夢にも、褒め言葉の一つも出てこない。

「生徒に自己の健康管理を促す…良いことのように聞こえますが…」

「え、い、良いことじゃないの?」

「えぇ、確かに良いことでしょう。これが、そこらにある小学校の養護教員の台詞なら、及第点をあげても良いです」

駄目なのか。

イーニシュフェルト魔導学院の養護教員である天音は、これでは駄目だと言うのか。

何で?良いこと言ってるのに。

「生徒が健康管理を出来るように、教師がそれを促す…甘い、甘いですね。イーニシュフェルト魔導学院の生徒たる者、誰に言われなくても、健康管理くらい自分で出来なくては」

あっ…。

成程、そういうことな?

イレースの言いたいことが分かった。

「小さいガキじゃないんですから、自己の健康管理くらい、言われなくても自分でしなさい。そんなことも出来ない者がイーニシュフェルト魔導学院の生徒を名乗るなど、片腹痛い」

…辛辣だなぁ…。

良いじゃんか。なぁ?イーニシュフェルト魔導学院の生徒って言ったって…まだ中高生なんだからさ。

「教師に促されてやっているようでは、まだまだです。情けない」

「そ、そんな…イレースさん…」

「天音さん。あなたはお人好し過ぎるんです。もっとビシバシやらないと、生徒に舐められますよ」

「うっ…」

うーん…。容赦ない。

さすがイレース…。これには、天音も意気消沈している。

天音、お前は悪くない。

俺はお前の味方だからな。

「天音さんの目下の目標は、もっと厳しく物事を考えることですね」

挙げ句、天音の将来の夢をイレースに決められている始末。

もう一度言うが、俺はお前の味方だぞ、天音。

元気出してくれ。
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