神殺しのクロノスタシスⅣ
「それで、皆これ、読んでくれたと思うけど…」

と、シルナが言った。
 
会議の進行役はお前か。

まぁ、学院長だからな。たまには役に立ってくれ。

最初に新聞のコピーを鼻紙にしたのも、お前だしな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけども…」

「良いから、話を進めろ」

「えぇと…。皆、どう思った?」

物凄くざっくりした質問。

だが、それぞれ皆、思うところはあるだろうからな。

各々の率直な感想を、順番に聞いていくのも悪くない。

「誰から言う?」

「え?誰でも良いけど」

そこは指名しろよ、と思ったが。

そこで、ナジュが新聞片手に、爆弾発言。

「あ、僕最後にしてください。まだ読んでないので」

おい。

お前、今何て言った?

「何で読んでないんだよ?」

全員、放課後までに読んどけって言っただろ?

「失礼ですね。僕は忙しいんですよ。何せイケメンカリスマ教師ですからね。いかなるときも生徒にモテモテで、しかもリリスにもモテるので、時間がなくて…」

「あーはいはい、もううるせぇ。良いからさっさと読んでろ」

最後だお前は。最後。

「じゃあもう、イレースから行こうぜ」

この、約一名の自称イケメンカリスマ教師のせいで、乱れに乱れきった会議の雰囲気を正せるのは。

鬼教官イレースをおいて、他にない。

「私ですか…。私の感想を要約して、一言にまとめると…」

と、イレースは言いながら、コピーした新聞を、ポイッとテーブルに放った。

「寝言は寝て言え、ですね」

うん。

今ばかりは、そういう、ズバッとした一撃を待っていたよ。

期待を裏切らない、強烈な一撃をありがとう。

さすがイレース。トップバッターに相応しい逸材。

「魔導師排斥論者のテンプレートですね。国民は魔導師に依存しているとか、それは魔導師によって無意識に洗脳されているからだとか、全く片腹痛いにも程があります」

イレースなら、そう言うと思った。

何言ってんだお前ら、馬鹿か?ってところだな。イレースの感想は。

この新聞には、魔導師に対する、ありとあらゆる罵詈雑言がしたためられていた。

さっきイレースが言ったように。

ルーデュニア聖王国の国民は、魔導師に洗脳され、魔導師に依存しなければ生きられないよう仕向けられている、とか。

魔導師は、自分で努力した訳でもないのに、生まれながらの才能だけで成り上がって、偉そうに振る舞っている、とか。

魔導師の存在が、非魔導師の存在価値を貶めている、とか。

そこらの図書館で、魔導師排斥論者の書いた著書を一冊でも読めば、全部書いてあるであろう…誰でも思いつく、魔導師に対する悪口の羅列。

「生まれながらの才能…なんて言ってる時点で、最早議論に値しません。魔導師だろうが非魔導師だろうが、生まれつき持っている能力が違うのは当然のことです」

その通り。

非魔導師の中だって、生まれつき賢い人やスポーツの得意な人もいれば。

生まれつき、物覚えが悪くて、運動神経もゼロという人もいる。

全く同じ人間なんて、この世には一人もいない。

魔導師云々は関係ない。

だから、「生まれながらの才能〜」なんて文章を引用しているも時点で。

この新聞は、イレースにとっては、笑止千万なのだろう。
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