神殺しのクロノスタシスⅣ
イレースの意見は、もっともだ。

確かに相対的に見れば、非魔導師より、魔導師の方が優れているように見えるのかもしれないが。

非魔導師には使えない、魔法という特殊な力を使える訳だからな。

魔導師の中にだって優劣はあるし、非魔導師の中にだって優劣はある。

でもそれは、誰が決めたことでもなく、生まれながらに備わっているもの。

いくらシルナが、「あぁ、パンダになりたい。動物園のパンダになって、一生だらだら笹を食べて生きたい…」と願っても。

どう頑張っても、シルナはパンダにはなれない。

いや、分身ならなれるかもしれないが。それはあくまで分身だから。

本体は無理。

仕方ないからシルナは、パンダになりたい欲求を抑え、一介の魔導師で満足するしかないのだ。

精々シルナは、パンダの真似をして、毎日だらだらチョコレートを食べるくらいしか出来ない。

「…何だか、羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「気のせいだ」

あと、事実だろ。

「…その、イレースさんの言うことはもっともだと思うんだけど」

と、手を挙げたのは天音だった。

次は、天音のターン。

「そうやって割り切るのは、難しいんじゃないかな。だって、魔導適性がある人は、選択肢があるでしょう?」

「選択肢?」

「そう。魔導師になるか、ならないかの選択肢。魔導適性があれば、自分で選ぶことが出来る。でも、生まれつき魔導適性にさえ恵まれなかった人には、選択の余地もないんだよ」

天音に言われて、俺はハッとした。

その通りだ。

魔導適性のある人なら、「魔導師になろうか、どうしようか」と選択出来るが。

魔導適性がない人には、そのような選択肢はない。
 
魔導師になる為の素質がないのだから、選択するまでもなく、生まれつき非魔導師として生きていくしかない。

どんなにその人が、魔導師になりたいと強く望んでも。

魔導適性に恵まれなかった者には、魔導師になりたいと言う権利さえないのだ。

そう思えば…この新聞も、イレースのように、笑止千万と一笑に付すことは出来ない。

「魔導師に憧れてるのに、魔導師になれなかった人は…やっぱり、妬みも僻みもするよ。そして、妬みも僻みも、強くなれば憎しみに変わる…」

「…」

それで、『サンクチュアリ』のような、過激な魔導師排斥論者の出来上がり、ってことか。

それはあるだろうな。

ここにいる俺達は、生まれながらに魔導師の素質を持っているが。

世の中には、どんなに魔導師になりたくても、なれない人がいるのだ。
 
そういう人の気持ちを、俺達には推し量ることしか出来ないが。
 
きっと、相当悔しいだろう。

世の中には、いくら努力しても、手に入らないものがあるのだ。

「それに…そういう人達にとって魔法は、きっと凄く危険なものに映るんだと思うよ。自分が扱えないから、余計に」

「…そうだな」

火や水、氷魔法といった、基礎魔法だけなら、身近にあるものの延長線だから、まだ理解出来るだろうが。

もっと危険な魔法が、世の中たくさん存在してるもんな。

シルナの分身魔法も、使いようによっては相当危険な部類に入るし。

例えば、そこで新聞読んでる振りをして、世界にある危険な魔法筆頭を使ってる男も…。

「失礼ですね羽久さん。僕の魔法は健全ですよ」

ほらな。案の定読んでた。

文章を読みながら、ついで感覚で人の心を読みやがって。

むしろ逆か?人の心を読みながら、文章読んでるのか?
 
どっちでも良いが、これまた危険な魔法であることに変わりはない。
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