神殺しのクロノスタシスⅣ
かく言う俺の時魔法も、危険な魔法だと言われてるけどな。

魔導師は、人の力、摂理を超越した力を使える。

その力を、世の為人の為に使えば良いが。

ナジュのように、見境なく乱用する奴もいるしな。

結局は使いようの問題なのだ。

どんな力でもそうだ。

きちんと使い方を弁え、倫理観を持って使うのなら、その力は人を助けるのに役立つが。

邪な考えを起こし、人道に反した目的で使うのなら、その力は人を傷つけるものになる。

だから、魔導師には強い人道的な価値観を求められる。

故に、全国の魔導師養成校では、魔導師に正しい倫理観を養う為の授業が、特に重視されている。
 
それに、国においても魔導師が使う魔法は、魔導倫理法という法律が、きちんと定められている。

…とはいえ。

「いくら道徳の授業受けたって、悪さする奴はやるし、やらない奴はやらないですけどね」

お前が言うと説得力段違いだな、ナジュ。

俺も、その通りだと思うよ。

「邪な考えを起こすなと言ったって、魔導師も人間だもんな…」
 
「…うん」

いくら、正しい倫理観を教えられたって。

正しい道だけを歩けるのが、人間の正しい在り方ではないからな。

魔法を用いて、悪いことをする魔導師だっているし。

そういう魔導師を一人見たら、いくら百人の魔導師が善行を行っていたとしても、悪さをした一人に目が行くのは当然のこと。

そのたった一人が、「魔導師は危険な存在だ」と、人々に思わせるのだ。

それは仕方ない。

大衆の感情とはそういうものだ。俺達には、どうすることも出来ない。

でも、だからって。
 
そのたった一人の悪い魔導師のせいで、魔導師全員が悪い、ってことにされちゃ困るのだ。

この新聞は、そこのところが分かってない。

危なそうだから。危険そうだから。魔導師全員弾圧しましょう、は間違っている。

あまりにも短絡的だ。

「この新聞は、魔導師に対して物凄く攻撃的だ」

と、俺は言った。

この新聞に書かれているのは、魔導師への積もり積もったヘイトだけではない。

「魔導師を弾圧して、虐げる為に、人々の決起を呼びかけてる。これじゃ、革命でも起こそうとしてるみたいじゃないか」

「革命ですか…。何処ででも起きるんですね、革命って」

ナジュが、新聞をポイッと放りながら言った。

何だ、その意味深な言い方は。

それより。

「ようやく読み終わったか」

「えぇ。要するに、『魔導師全員くたばっちまえ』ってことですね」

めちゃくちゃ大雑把だが、言いたいことは分かる。

「ちゃんとした印刷書を通して、昼間に堂々と配布するんじゃなく、闇で配ってるのはそのせいですね。こんなもの、聖魔騎士団の目に触れたら、下手したら逮捕ですよ」

それくらい、際どい…って言うか。

危ないことが書かれている。

こんなものを大衆が読み、賛同する者が増えたら。

本当に、ルーデュニア聖王国での、魔導師の立場が危うくなる。

未来の魔導師となるべき、イーニシュフェルト魔導学院の生徒達も。

彼らの尊厳が、奪われようとしているのだ。
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