神殺しのクロノスタシスⅣ
「断言しておきますが、きっとろくでもない方法なんでしょうね」

と、イレース。

相変わらず、何の容赦もねぇ…。

「何だろうね…。聖魔騎士団の弱みでも握ってるのかな…?」

と、天音。

「握るような弱み、あるか…?」

聖魔騎士団長のアトラスは、脳筋を絵に描いたような男。

良くも悪くも馬鹿正直で、他人に握らせる弱みなど、まるで思い浮かばない。

それに、そのアトラスの妻である、聖魔騎士団魔導部隊隊長であるシュニィも。

奇策を考えるのが得意な彼女であるが、しかし彼女のやり方は、いつだって清廉潔白だ。

他人に後ろ指を指されるようなことは、一切していない。

シュニィの言動には、いつも強い信念と説得力がある。

だから、誰もシュニィを責めることは出来ない。

しかも、根拠もなく、感情に任せて下手にシュニィを蔑むようなことを言えば。

彼女の夫である脳筋アトラスに、地獄の果てまで追い掛け回されることになる。

聖魔騎士団の人間は、大概そのことを理解しているので。

公然とシュニィを罵倒するような者は、一人もいない。

…しかし。

そのせいで聖魔騎士団の隊員達は。

運悪くアトラスに捕まると、アトラスによる、「シュニィと子供達がいかに可愛いか」という、妻子自慢を。

延々と、それこそ夜が明けるまで熱弁されることになる。

運悪く捕まった隊員は、夜が明けてようやく開放された頃、ぐったりとして、丸一日ベッドで寝込んでしまったとか。

どんだけ鬼気迫る勢いで、熱弁されたんたって話。

事の次第を聞いたシュニィが、顔を真っ赤にして、その運の悪かった隊員に全力謝罪し。

かつ、アトラスを叱ったらしいのだが。

そのときもアトラスは、自分は至極当然の事実を言っただけなのに、何故怒られているのか、首を傾げているだけだったらしい。

な?馬鹿正直だろ?

あの二人に限って、他人に握るような弱みを見せるなんて、まず有り得ない。
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