陰謀のための結婚
「香澄?」
別の声が聞こえて、目を向ける。そこには母が立っていた。
「お母さん!」
どこから聞いていた?
焦る私とは対照的に、智史さんは背筋を伸ばし、口を開いた。
「香澄さんとお付き合いをさせていただいています、城崎智史です」
突然の事態にも動じない、堂々とした物腰。
「まあ、お付き合いしてるの」
「はい。結婚も考えた真剣なお付き合いを」
「智史さん!」
彼の腕を引っ張ってみても、もう遅い。
「そう。香澄、頑固だから大変でしょう?」
「えっと、そういうところも含めて香澄さんが好きなので」
言葉を選んではいるものの、恥ずかしげもなく母に宣言する彼に、普通なら感動するのだと思う。
私は地面を見つめるばかり。
「俺は、これで。香澄ちゃん、また連絡するから」
「はい」
彼は母にも一礼して、帰っていく。
残された私は母と気まずい空気の中、アパートに帰った。