陰謀のための結婚
なにも話さないまま玄関を入ると、母は固い表情で告げた。
「香澄、ちょっと話があるの」
反対されるのかな。そうだよね。私は結婚してはいけない星の元に生まれているのだから。
テーブルを挟んで、母の向かいに腰掛ける。すると母はなにかをスッと私の前に差し出した。
それは古い通帳。
「これ……」
「香澄が独り立ちするときの足しになればと思って」
震える手で通帳を受け取り、中を開く。残高は一千万円近くあった。
「だって、お母さん、手術は」
うちには、余分なお金は少しもないはずで。
「手術はね、お母さんだって医療保険に入っているわ。ほかにも満期になる積み立てもあるの。ただ手術が怖くて、やりたくなかっただけ」
私はやり切れない思いを母にぶつける。
「あんなに無理して働いてたじゃない」
「それはやっぱり将来のためにって、取り憑かれていたのね。お金が足りなくなったら、どうしようって。でも今が辛かったら、本末転倒だって、やっと気付けたの」
母子ふたり、本当に金銭的に辛かったときもあったと思う。その経験から心配になって必要以上に働いていたのも、今となっては母の気持ちもわかる。けれど。