陰謀のための結婚

 頬に手が触れて目を開ける。いつの間にか眠っていた。

「ごめんなさい。また眠って」

「泣くと寝てしまう子どもみたいだ」

 涙で張りついた髪を梳かし、「俺の部屋でゆっくりしない?」と誘われた。

 言われてみれば、ここは何度か来ている彼のマンションの駐車場だった。眠っている間に移動したようだった。

「今日は、帰ろうかと」

「そっか。うん。病院で普通に帰されたのは、大丈夫だと判断されたんだよね?」

「あ、はい。そうです。すみません。ちゃんと説明せずに」

 話し終わっても、彼は動き出そうとしない。

「あの、智史さん?」

「ああ、うん」

 返事だけをして、智史さんは自身の頭に手を差し入れて運転席のドアにもたれかかった。

「俺の前から姿を消しそうで、帰したくない」

 初めて見る弱気な彼に、心が揺さぶられる。

「一緒にいても、私は横になっているだけだと思いますし」

「それでもいいから、側にいさせて」

 彼の揺れる瞳を見ていられなくて、「わかりました」と承諾した。
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