陰謀のための結婚

「香澄」

 囁かれた名前が甘い熱を帯びて、耳に届く。

「きみにぴったりの名前だ。かすみ草みたいに儚げで可憐で守りたくなる」

 彼はそっと私の顎に手を当てて、上を向かせた。必然的に視線が絡まり、彼から逃げられない。

 彼は顔を近づけると、そのまま優しく唇を重ねた。そしてきつく抱き締める。

「悪い。性急過ぎた」

 私は彼の腕の中で、彼の言葉をただ聞いていた。

 そこからどうやって家に帰ったのか。記憶は曖昧だ。食事はしなかった。と思う。できる心境ではなかった。

 家に送り届けると言われ、やっと我に返った。家を知られるわけにはいかない。彼にとって私は"三矢不動産"の娘なのだから。

 そして逃げるように、彼の前から姿を消した。
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