陰謀のための結婚
「実は今日、香澄ちゃんに会わせたい人がいて呼んであるんだ。まもなく現れるはずだ」
個室の入り口に目を向ける智史さんに倣い、そちらに視線を移す。ほどなくして開かれた扉に「さすが時間厳守」と智史さんは感心した様子で言った。
私は入ってくる人たちの顔を見て、驚きを隠せない。
城崎社長に、夫人、それから三矢の妻。
戸惑う気持ちで智史さんを見つめると、城崎社長がおおらかに口を開いた。
「取って食べたりはしないから、そんなに怯えなくても大丈夫」
続けて夫人が上品な所作で口を開く。
「ごめんなさいね。最初から私たちも来るって言ってしまうと、もしかしたら来てくれないかもしれないと思って」
彼のご両親との食事に誘われたら、恐れ多くて断りたい気持ちにはなるかもしれない。けれど、立場的には断れないだろう。
それよりも私は気になって、三矢の妻にさりげなく視線を向ける。
さりげなく見たつもりが、彼女の苦笑を誘ってしまった。
「どうして私がここにいるのって思うわよね。本当は三矢本人が話せるといいんですけど」