陰謀のための結婚

 彼のマンションにお邪魔して、勧められるまま入浴する。寝室に行くと彼は私の髪を乾かしたあと、私を抱き寄せた。

「おやすみ」

 柔らかな声は優しい。温かなぬくもりに導かれ、私は目を閉じた。

 目が覚めたのは、カーテンの隙間から朝日が薄らと部屋を照らし始める早朝。

 智史さんはすぐ近くで眠っている。

 まじまじと寝顔を見つめ、そっと頬に唇を寄せる。

「大好き、です」

 自分で言った言葉に胸が甘酸っぱくなり、彼の肩に顔を埋める。すると「くすぐったい」と言いながら抱き寄せられ、彼は再び眠ったようだった。

 知るのを避けてきた自分の生い立ちの断片。まだ整理はできていないけれど、目を背けてはいけない。

 私が前を向かなければ、きっとみんなの厚意を無駄にする。

「許されるのなら、智史さんの側にいたい」

 陰謀から始まったと思っていた出会い。それでも彼に惹かれずにはいられなかった。
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