陰謀のための結婚

 車が停車する音を聞き、目を覚ます。辺りは真っ暗だ。

「ご、ごめんなさい。本当に眠ってしまって」

 髪に手を通しながら体を起こすと、柔らかな表情を浮かべている智史さんと目が合った。

「よかった。起きてくれて。あまりにもかわいい寝顔だから、何度も起きし損ねた。体は痛くない?」

「私は大丈夫です。智史さんは」

「慣れてるから平気。さすがに女性を連れてくるには遠かったなと、少し反省してるけど」

 西麻布のカフェを出たのが一時。辺りは暗い。今は何時だろうか。

「遅くなったけれど、夕食にしよう」

「あの、今、何時ですか」

「八時だよ」

「えっ! 私、どれだけ眠って」

 眠っていてと言われたのが三時頃。いくら寝ていいと言われたからって爆睡し過ぎだ。

「よほど疲れていたのかな。旅行に誘って良かったのか心配になるよ」

 さりげなく髪に手が触れ、彼の指先が髪を梳かす。微かに動く髪がくすぐったいし、なんだかとても恥ずかしい。

「あの、食事をするんじゃ」

「ああ、そうしよう」

 手を離し、車から降りる彼にホッと息をつく。彼の色気に囚われたら、動けなくなる。

 二泊三日の旅行で、彼との甘酸っぱい関係を想像し、胸が音を立てる。それと同時にこれは陰謀から始まった政略結婚なのだと思い出し、悲しくなった。
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