陰謀のための結婚

 部屋に戻ると、彼は窓側の椅子に腰掛けて庭を眺めていた。

「綺麗ですね」

 日本庭園が美しく、絵になる風景が部屋から見られる。趣きのある灯籠に、枝振りのいい松、剪定された丸い植木。どこを切り取っても絵画のようだ。

「ああ、旅館も街並みも、古き良き日本の風景が大切に残されている」

 癒される景色を前にして、彼は腕組みをして難しい顔をしている。

「なにか、悩んでいらっしいますか?」

「あ、ああ。ごめん。せっかく旅行に来ているのに」

 組んでいた腕を解き、眉尻を下げた彼に首を振る。

「いえ。本当はお仕事でいらしたんですもの。私の方こそ楽しんでばかりで、なにも気が付かなくて」

「いや、楽しんでくれていい。勝手に仕事に絡めているだけで、完全にプライベートだ。本当にいい温泉地だと心から思った」
< 59 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop