陰謀のための結婚

 仲居さんが退室して、彼を誘う。

「そろそろ外湯めぐりに行きませんか?」

 しかし彼は庭を見つめまま、動かない。

「智史さん?」

「ああ、うん。曽祖父が城崎温泉で旅館をしていたと話したよね」

「はい」

 真面目な語り口調の彼の隣に腰掛ける。

「ここの旅館なんだ」

「えっ」

 まさかそうだとは思わなかった。旅館の名前は"松上屋旅館"。全く関係のない旅館だとばかり思っていた。

「といっても、今は曽祖父の血筋の人がいるわけじゃない。曽祖父の子どもは祖父ひとりで、勘当して別れ別れになったらしいから」

 どこでも同じような話があるのだなと思う。母と私の場合は、父から見捨てられた方だけれど。

 それに三矢は結婚しており、跡取り息子がいるはずだ。調べるつもりはなかったのに、その情報は簡単に目に入ってしまった。

 どう過ごしていようと三矢のその後については、私には関係のない話だ。

 私は余計なことを考えないように、改めて智史さんの話に意識を向ける。
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