陰謀のための結婚
母の体調が少し心配でテーブルの上にスマホを出しておこうと、置いた途端に振動した。
《城崎智史》という名前を見て、目を丸くする。スマホを置いたのは、ちょうど玲奈にも見える位置だった。
「いいんですか? 出なくて。噂の彼、ですよね?」
「うん。お店の中だし」
なかなか止まらない呼び出し音に痺れを切らしたのは、玲奈の方だった。止める間も無く、スマホを手にして私の目の前で電話に出た。
「もしもし。香澄さんにお電話ですか? 今、大森駅近くのボーノというイタリアンにいるので、いらしてください」
「ちょっと玲奈!」
慌てて手を伸ばしても、玲奈は体を仰け反らせて話し続ける。そして勝手に電話を切ってしまった。
通話の切れた電話を私に差し出して、玲奈はにっこりと微笑んだ。
「では、彼がいらっしゃるまで、彼との馴れ初めを存分にお話しください」
どうやら玲奈には勝てないらしい。私は大きなため息をついてから、智史さんについて話し始めた。