陰謀のための結婚

 御曹司である点や、私と父との関係など、話がややこしくなりそうな内容は伏せて、概要を掻い摘んで伝える。

「つまり香澄さんは彼を好きなのに、彼のために別れると決めて付き合っていると」

 話せる部分を話すだけで疲弊した彼との関係を、たった一行で表現した玲奈はさすがだと思った。

「それって諦める必要あります?」

「いいの。期間限定を楽しむって決めたから」

 明るく言うと、玲奈は渋々という顔つきで「香澄さんがいいなら、いいんですけど」と引き下がった。

「わぁ、今入ってきた人、かっこいい」

 店内の女性が噂する声を聞き、身構える。想像通り「俺、来てよかった?」と爽やかに微笑む智史さんが席までやってきた。

「ちょっと! 聞いてた以上の方なんですけど!」

 はしゃぐ玲奈の顔をまともに見られない。もちろん智史さんの顔も見られない。昨日別れたばかりだというのに、彼がまぶしくて直視できない。

「では、私は帰りますので、あとはおふたりで〜」

「えっ、ちょっと玲奈⁉︎」

「香澄さん、明日は尋問を覚悟しておいてください」

 企み顔を残し、玲奈は店を出て行った。
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