陰謀のための結婚

「尋問って、大丈夫?」

 四人掛けのソファ席で、智史さんは私の隣に座る。玲奈が食べ終えた食器があるから、仕方がないけれど、近い距離になんだか落ち着かない。

「冗談で言っているので平気です。すみません。突然、呼び出すような真似」

 玲奈の場合、冗談ではなさそうだけれど、とりあえずそう言っておく。

「食事に誘うつもりだったからいいよ。玲奈ちゃん? 面白い子だね」

 智史さんは頬を緩めている。

「それに、家の近くの飲食店は西麻布じゃなく、大森だって知れたし」

 前回待ち合わせしたカフェよりも、ここはずっと庶民的なお店だ。

「ここ、おいしいんですよ」

 大森の中でもボロアパートに住んでいると知ったら、彼はどういう顔をするだろう。

「うん。なにか食べようかな。香澄ちゃんは食べたの?」

「はい。半分くらいは」

 残りを指差して、肩を竦める。

「玲奈ったら、智史さんを呼んだ時点で先に帰るつもりだったのね」

 ぼやいていると、彼の指が頬をなぞる。

「俺は、きみの別の顔が見れてうれしいよ」

「え」

 触れた指に誘われて彼と視線が絡む。引き寄せられるように、顔が近づきそうになって慌てて顔を背けた。

 私、今、なにしようとしたの? ここイタリア料理店よ。
< 88 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop