陰謀のための結婚

 動揺している私の手に、するりと指が絡んで肩を揺らす。

「ご注文、お決まりですか?」

 呼び出しボタンで呼んでいたようで、店員が席に顔を出した。智史さんは何食わぬ顔でもう片方の手で、メニューを指し示している。

「このパスタのAセットで」

 私と智史さんの間にある手と手。店員から見えないのかもしれない。だからって、顔が熱くて仕方がない。

 表情に出さないようにしているのに、わざと指先を絡め直す彼。

 声が漏れそうになるのを必死で堪えて、店員が離れたあとに小声で抗議する。

「智史さんの性格を疑います」

 振り払いたいのに、余計に絡められて(ほど)けない。

「香澄ちゃんがかわいくて、つい触れたくなるって前も言ったと思うけど」

 言えばいいってわけではない。

「TPOを弁えてください」

「浮かれてるのは認めるよ」

 手は解放され、その手を自分の手で包み込む。

「先に食べて。俺も運ばれてきたら、急いで食べるから。ふたりになれるところに行こう」

 ふたりになれるところ。妖しい響きの誘いを拒否すればいいのに、彼に触れたいと思っている自分がいた。
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