陰謀のための結婚

 服装を整え、頼んだソフトドリンクをひと口飲む。オレンジジュースだった。彼は烏龍茶を一気飲みした。

 店を出て、アパートに向かう。手は絡めて繋がっている。歩きながら、彼はぼそりと言った。

「余裕なくてごめん」

「バーですよね。完全アウトですよね」

「支払いは多めに置いてきたよ。注文もソフトドリンクしかしてないから申し訳なくて」

 飲み物なんてどうでもよかった。ただお互いに触れたかった。すぐ近くで、ギリギリひと目を忍べるところを選んで。

「ふ、ふふ」

 恥ずかしくて逃げるようにお店を出た。それがすごくおかしくて笑えてくる。

「どうしたの?」

「だって、智史さんすました顔してますけど、髪、はねてますよ」

 慌てた様子で髪に手を当てる彼が「ハハ」と笑いをこぼす。

「香澄ちゃんがいけないんだろ。キスの最中、髪をつかむから」

「もう! 声に出して言わないでくださいよ!」

 頬を膨らせ、彼と睨み合う。そして「プッ」とお互いに吹き出した。

「やっぱり一緒に暮らそう」

 彼は表情を緩めて甘く誘う。

「無理ですよ」

「こんなに俺のこと好きなのに?」

「自意識過剰です」

「ハハ。それは失礼」

 彼は髪をかき上げて、空を見上げて笑う。街灯に照らされる陰影が、彼の美しさをより際立たせる。
< 92 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop