陰謀のための結婚
服装を整え、頼んだソフトドリンクをひと口飲む。オレンジジュースだった。彼は烏龍茶を一気飲みした。
店を出て、アパートに向かう。手は絡めて繋がっている。歩きながら、彼はぼそりと言った。
「余裕なくてごめん」
「バーですよね。完全アウトですよね」
「支払いは多めに置いてきたよ。注文もソフトドリンクしかしてないから申し訳なくて」
飲み物なんてどうでもよかった。ただお互いに触れたかった。すぐ近くで、ギリギリひと目を忍べるところを選んで。
「ふ、ふふ」
恥ずかしくて逃げるようにお店を出た。それがすごくおかしくて笑えてくる。
「どうしたの?」
「だって、智史さんすました顔してますけど、髪、はねてますよ」
慌てた様子で髪に手を当てる彼が「ハハ」と笑いをこぼす。
「香澄ちゃんがいけないんだろ。キスの最中、髪をつかむから」
「もう! 声に出して言わないでくださいよ!」
頬を膨らせ、彼と睨み合う。そして「プッ」とお互いに吹き出した。
「やっぱり一緒に暮らそう」
彼は表情を緩めて甘く誘う。
「無理ですよ」
「こんなに俺のこと好きなのに?」
「自意識過剰です」
「ハハ。それは失礼」
彼は髪をかき上げて、空を見上げて笑う。街灯に照らされる陰影が、彼の美しさをより際立たせる。