陰謀のための結婚
「俺、妊娠させなきゃいけないだろ?」
ストレートな言い方に、胸の奥が鈍く痛む。彼が立ち止まったため、私もその場に立ち止まる。彼の顔が見られない。
「妊娠できるチャンスをくれなきゃ、フェアじゃない」
それは彼の腕の中で、彼に抱かれるのと同じ意味のはずなのに、今までの浮かれた気分が吹き飛んでしまう。
さっきまで同じ行為を、彼と同じ熱量で求めていたはずなのに。
「香澄ちゃん?」
「アパート、この先なんです。もうここで平気ですから」
「アパートの前まで送らせてよ」
「ボロアパートですから」
「その程度で幻滅したりしない」
私の体は、妊娠できないとしたら?
期間限定の付き合いを楽しむはずが、堂々巡りをして、やっぱりここに戻ってきてしまう。
頑なに動かない私に、彼の方が折れた。
「ここから、本当に近いんだね?」
「はい」
「気をつけて帰って。アパートについたら連絡して」
「大丈夫ですから」
智史さんは真っ直ぐに見つめてから、ため息を吐いた。頑固な私に呆れたのかもしれない。
「明日から出張で、会いに来れない。週末にデートしよう」
彼は唇に軽いキスをして「おやすみ」と来た道を戻って行った。