陰謀のための結婚
着付けを終え案内された場所には、三矢ともうひとり女性がいるだけだった。女性は私に気づくと、表情を明るくして歩み寄ってきた。
「あなたが香澄さんね? かわいらしい人だわ」
気品溢れるその人が誰なのか、両家の顔合わせなのだから、自ずと理解した。
「私が代役でごめんなさいね」
「いえ」
三矢の娘として顔合わせをするのだから、当然母はこの場には来れない。
目の前の女性は、母との後に三矢と結婚したその人だろう。それならば、それ相応の家柄の女性だ。
そういう女性にしてみれば、婚姻前の夫の過ちくらい笑顔で許せるもので、過ちの証拠ともいえる私の母親役も平気で務められるようだ。
気品とともに溢れ出る余裕が、私を惨めにさせた。
「お相手はすごくいい方よ。きっとお母さまも安心されるわ」
嫌味など微塵も感じない、心からの言葉だと信じられた。どんな相手の幸せも喜べる生まれながらのお嬢様。
彼女の純粋さを心から羨ましく思った。
もしもこの先、このまま結婚したとしても、母は私の夫に会う機会も与えられないだろう。
そこまで考えて、心の中で笑う。
余計な心配というものだ。彼とは結婚しない。そう心に決めているのだから。