陰謀のための結婚
しばらく無言で歩いてから、智史さんはポツリと言った。
「つらい思いをさせたね」
見上げると、眉尻を下げている彼と目が合った。
「なんのことですか」
彼の目を見ていると、気持ちがさざめいく。慌てて顔を背け、脇にある植木の葉を見つめた。青々とした葉が夏の強い日差しを遮り、木漏れ日を作っている。
「あの女性は、直輝の母親だ」
直輝とは、前に話していた三矢の息子なのだろう。不用意に名前を知り、複雑な思いになる。
「両家の顔合わせの話が持ち上がったと聞き、きみが俺との関係を前向きに考えてくれたのだと安易に捉えた」
風がそよぎ、葉を優しく揺らす。美しい光景も、虚しさが広がるばかり。
私はそっと手を伸ばして、彼の手に触れた。
「ふたりになれるところに行きたいです」
彼は息を飲んでから、「俺の部屋に行こう」と言った。
着物は着て帰っても困るため、ここに来たときの私服に着替えて彼と料亭を出た。