愛のアンフォルメル
帰省最終日、駅のホーム。
夏の熱風がスカートの裾をはためかせる。

暑さに天を仰いだそのとき、見知った彼の姿が見えた。

「凛子、もう帰るのか?」

「……理玖」

彼は一瞬だけ逡巡したあと、意を決したように顔を上げた。

「俺じゃあ、ダメなのか……?」

しゅんとしょげたその表情に、私は不覚にも笑ってしまった。

可愛いは可哀想だよね。
理玖は私にとってどこまでも愛玩動物のような存在だった。

「ごめんね。私にはやっぱり彼しかダメみたい」

爽やかに悪気なくそう言い放った。
理玖だけは、子どもの頃のまま永遠に可哀想な存在でいて欲しいので。

愛なんてものはただの思い込みで。
それでも菫さんの芸術に埋もれられた夏祭りは、今も昔も幸せだったから。

私は思い込みを捨てられないまま、明日を生きていく。

彼の指先の熱を永遠に覚えていたい。
それがどれだけの虚無を伴っているのだとしても。

「あぁ、そうかよ」

意識の遠くの方で理玖の声が聞こえた。
どんな言葉も慰めにはならないので、私はただ黙って背を向けよう。

夏が、過ぎていく――――。
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