愛のアンフォルメル
高校一年の夏。
私は菫さんに告白をしようと綺田家を訪れていた。
だが、彼の部屋には私の知らない女性がいた。
裸になったその女性を菫さんは一心不乱に描いていた。
ヌードモデルであったその人はとても美しく、魅惑的なプロポーションだった。
だから、菫さんがそのまま彼女に近づいていって、彼と女性の顔が重なったとき私は妙に納得した。
大人なキスを何度も繰り返す彼らを、私はただじっと観察していた。
そうすれば菫さんのことが分かるのかもしれない、そんなことを考えた。
知りたくもない女性の喘ぎ声に耳を塞いで、そのまま綺田家を後にしておくべきだった。
そうしなかったから、私は菫さんの言葉をしっかりと聞き取ってしまったのだから。
菫さんに現を抜かし、ぽぅっと顔を赤らめている女性に向かって、彼は言った。
「愛なんてものはどこにもないんだ。だから、僕はそれを描きたい。――――いいね? 君は今から僕の道具だ」
菫さんの言葉にヌードモデルの女性はこくりと頷いた。
そして二人は再び口付けを交わしていた。
そのあと、彼らが愛を探すために身体まで繋がったのかどうかは分からない。
扉前で固まっていた私を理玖が連れ出してくれたから。
「凛子、行くぞ」
私の握りこぶしがゆっくりと開かれ、彼の手が滑り込む。
そのままぎゅっと優しく手を握られて、私たちは夏の夕暮れの街へと逃げ出したのだ。
その一年後だった。
菫さんの作品が世界的に注目され始めたのは。
特に人気だったのは「初心」という作品で、そこには当時の様子がしっかりと刻まれていたのだ。
裸の女性とキスを交わす菫さんの姿、そしてそれをじっと見つめる私まで――――。
ねぇ、菫さん。
――――愛って、なんだろうね。
幼心を弄ばれて、傷つけられて、それでも私はあなたのことが好きで好きで仕方がないんだよ。