見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 想像すると背中に氷を入れられたような心地になる。

 そうならなくて良かった──と思っている自分が、やけにすんなりと現状を受け入れていることに気づく。そこで、ふと思い出した。

「あの、私と一緒にいた、女の人は」

 早紀子さんについて尋ねると、女性医師は首をしばらくかしげた後、首を振る。

「ごめんなさい、その方については私は知りません。救急隊の話では駆けつけた時、倒れてるあなたの周りには人が集まっていたそうだけど、付いてきた人はいませんでしたよ」
「……そうですか」

 人混みにまぎれて様子を窺っていたか、もしくは動転してすぐに去るかしたのだろう。予想の範疇ではある。

 彼女を、糾弾しようという感情は湧いてこなかった。
 今日のことで気が済むか罪悪感を覚えるか、とにかく同じ真似をしてこなければもういい。そんなふうに思う。

 女性医師はその後、気分は悪くないか、頭以外に痛みはないかなど二・三の質問をしてから「大事を取って今夜は入院してくださいね。個室代は後で請求に含まれますから」と言い、部屋を出ていった。

 落ち着いてから部屋を眺めてみると、確かに個室だった。しかもけっこう広い。
 状況的に誰かが希望したとは思えないから、おそらく大部屋とかに空きがなかったのだろう。けれど病院都合の個室入りは差額を払う必要がなかったはず。会計される前にちゃんと申請しないとな、とまず考えたのはかりそめにも「主婦」をしている影響だろうか。

 ひとりになるとあらためて、現状がじわじわと、脳に染みるように実感されてくる。
 最近、体調が少しおかしい気がしていたのは、きっと妊娠が原因だったのだ。まだ自覚症状はないけれど、たぶんこれから、つわりとかも感じたりするのだろう。

 いろいろ考えているうちに、唐突に不安が浮かんだ。

 ……稔くんは、このことを知って、どんな反応をするだろうか。
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