見合いで契約婚した幼馴染が、何故か激しい執着愛を向けてくるのですが!

 だから、裏切るような行動はするべきではない。
 そう結論を出して、断ろうとした時。

 急に後ろから肩を引かれて、仰天した。
 同じタイミングで澤田くんが、目を見開いてこちらを、というか私の後ろを見ている。
 私が背後を振り仰ぐ前に、頭のすぐ上から声がした。

 「申し訳ありませんが、彼女は私の妻なので。そういったお誘いはご遠慮いただけますか」

 耳触りの良い声が、低く抑えられて発せられる。
 丁寧な口調に隠された感情は読めない。

 ……いったい、どんな表情をしているのだろう。

 今度こそ振り返ろうと思ったが、そうする直前に、今度は腕を強く引かれる。
 呆然としている澤田くんに構うことなく、出口に向かって速足で歩く彼に、付いていくので精一杯だ。

 「と、稔くん」

 いったん止まってほしくて途切れがちに呼ばわるけど、稔くんは振り返らない。
 同窓会が開かれている宴会ホールを出て、広い廊下を抜けて、地下の駐車場へ続く階段を下りていく。

 無言で歩く彼と引っ張られて付いていく私を、同窓会の参加者やホテルのスタッフがすれ違いざまに、目を丸くして見つめていた。

 なぜここにいるのか、どうして私をこんなふうに連れ出すのか。
 尋ねたいのに、尋ねることは許されない。そんな空気を彼の背中から感じた。

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