竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 先ほど国王陛下に対して勝手な妄想を膨らませたように、エルナはルードヴィヒに対しても妄想を膨らませていた。ヘンデルで見たかっこいい令息たちをすべて合体させたような人物を思い浮かべていたところで、「失礼します」というフランツの声と共に重い扉が開かれる。
 そこに立っていた人物を見て、エルナは言葉を失った。
(なんて――綺麗な人)
 後ろでひとつに結わえられた、アイスブルーがかった銀色の長い髪。髪の色より少しだけ濃い、透き通るようなグレーの切れ長の瞳。高くてスッと通った鼻に、薄くて形のいい唇。背も高く、完璧な容姿と完璧なスタイルを兼ね備えた非の打ち所のない美形だ。
 想像を遥かに超えたルードヴィヒの美しさに、エルナは思わず見惚れてしまった。これは噂になるのも頷ける。実際にルードヴィヒを見たら、嫁ぐのを嫌がっていたヘンデルの令嬢たちも手のひらを返すかもしれない。
「エルナ様、ルードヴィヒ様にご挨拶を」
「あっ……は、はい! 申し遅れました。エルナ・アーレントと申します。このたびは、ルードヴィヒ様の妻としてシェーンベルグへお招きいただけたこと、たいへん嬉しく思っております」
 エルナはドレスの裾を上げ丁寧にお辞儀をしたあと、父親に「とにかく最初は笑って愛想を振りまいておけ」と言われた通りにこりと微笑んだ。
 ルードヴィヒの瞳が初めてエルナを真正面から捉える。目が合った瞬間、エルナはどきりと大きく心臓が脈打った。鼓動が加速していくが、ときめきとは違う。どちらかというと恐怖に近い。ルードヴィヒがエルナに向ける眼差しは、あまりにも冷たかったのだ。
(実際会って気に入らなければ、その時点で追い返される可能性も無きにしも非ずと聞いたけど……そんなことになったら、私はきっと終わりだ。ルードヴィヒ様の妻としての役目を全うできなかった私を、お父様やアリーシャが許すはずがない)
 ここに来てしまった時点で、エルナの居場所はもうほかにはありえなかった。ルードヴィヒに拒否されたらどうしようと、エルナは怖気づく――が、心配したのもつかの間、ルードヴィヒはなにも言わずに目を逸らした。決していい反応ではないし、どちらかというと悪い反応ととれるが、追い返されないだけでエルナは一安心した。
「ルードヴィヒ様、名前くらいは名乗ったほうがよいのでは?」
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