竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 フランツが一言も言葉を発さないルードヴィヒにそう言うと、ルードヴィヒはそっぽを向いたまま「……ルードヴィヒ・シェーンベルグ」と不愛想に呟いた。本当に名前以外はなにも話そうとしない。エルナはルードヴィヒがいかにこの結婚に興味がないかを、身をもって思い知る。
「それでは本日この瞬間より、エルナ様はルードヴィヒ様の正妻となります」
 竜人の国、シェーンベルグへ来て一時間も経たずして、エルナはこの国の王、ルードヴィヒの正式な妻となった。
 数秒前に初対面し、名前だけを名乗りあい、目を合わせた時間は一分にも満たない。だけど、もうふたりは夫婦という関係が結ばれている。
(結婚ってこんな簡単に交わされるものなの? もっと面倒な儀式があると思っていたわ)
 あっさりしすぎて拍子抜けするが、エルナはこれがシェーンベルグのやり方なのだと思うことで自分を納得させた。
「フランツ、用が済んだならもういいだろう。俺は仕事が残ってるんだ」
「結婚の日くらい、仕事を休まれてもよいのではないですか?」
「馬鹿を言うな。特別な日でもあるまいのに」
 遠回しにさっさと出て行けということだろう。フランツはこんな調子のルードヴィヒを見てやれやれと肩をすくめる。
(……ルードヴィヒ様にとって、一体どんな日が特別な日なんだろう)
 会ったばかりというのに、エルナはルードヴィヒへの謎が深まるばかりだった。しかし、夫婦となってもその謎を知るほど近い存在にはなれないのだろうと悟っていた。

 ルードヴィヒとの顔合わせ、そして結婚を終えたエルナは、フランツによってこれからエルナが使うことになる部屋へと案内された。
「こちらがエルナ様専用のお部屋となります。持ってこられていた荷物は既にここへ運ばせていただきました。なにか御用がありましたら、王宮の使用人になんなりとお申し付けくださいませ。本日は長旅で疲れていると思いますので、これからの生活についての説明はまた明日以降にさせていただきます。それでは、ゆっくりお休みになられてください」
 部屋の前で一礼すると、フランツはお礼を言う間もなく背を向けて早足でどこかへ行ってしまった。
 エルナは厚意に甘えて、とりあえず部屋で休むことにした。
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