竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 相当慌てているのか、エルナはどもりっぱなしだ。侍女たちはエルナの言葉を単なる照れ隠しと受け取ったのか、ふふふと微笑みを返すだけで聞き入れる気はなさそうだ。
 結局言われるがまま、用意されたナイトウェアを纏い、エルナはルードヴィヒの寝室まで連れてこられた。
(初夜って――つまりそういうことをするのよね? そんなこと聞いてない! 心の準備もできていないのに……)
 覚悟が決まっていないエルナをよそに、侍女が部屋の中にいるルードヴィヒに声がけをする。
「ルードヴィヒ様、エルナ様をお連れいたしました」
 頼むからもう寝ててくれないかな、なんて淡い期待を抱いたが、扉の向こうから「……ああ」というルードヴィヒのそっけない返事が聞こえて、エルナはがくりと肩を落とした。
 侍女はエルナが部屋に入るのを待っているのか、立ち去ることなくその場に踏みとどまっている。エルナは仕方なく扉に手をかけ、自分からルードヴィヒの寝室へと足を踏み入れた。
 部屋の中は薄暗く、少し肌寒さを感じた。よく見ると、部屋の窓がかすかに開いている。そこから風が吹き込んでいるようだ。
 ルードヴィヒはエルナの部屋にあるものよりもっと大きなキングサイズのベッドに腰掛けて、ただ窓の外を見つめていた。エルナが入ってきたことに気づいていないのか、それとも気づいたうえで、なにも反応しないのか。どちらかわからないエルナは、恐る恐る口を開いた。
「あ、あの……ルードヴィヒ様?」
 ちょっとだけ近づいて、それでもだいぶ離れた場所から、エルナはルードヴィヒの名前を呼んだ。ルードヴィヒはエルナのほうを振り向くと、あきらかに強張った顔をしているエルナを見てため息をついた。
「……そんなに怯えるな」
「え?」
「初夜だからって、特になにかをするつもりはない。俺はお前に手を出さない――今日も、これからも」
 そう言うと、ルードヴィヒはふいっとエルナから顔を背けた。
 エルナは手を出さないと言われ内心ほっとしたものの、〝これからも〟という言葉を聞いて、やはり自分はルードヴィヒの妻として相応しくないことを自覚する。
「私なんかが結婚相手で申し訳ございません。ヘンデルには、聖の魔力を持つもっと素敵な女性がたくさんいるというのに……私なんかが選ばれてしまって」
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