竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 首を傾げてエルナを観察していたフランツにエルナが声をかける。そしてあっという間に彼の曲がったネクタイを直してあげた。
「あ、ありがとうございます……気づきませんでした」
「いいえ。私、こうやって誰かのお世話をするのも、家事をするのもまったく苦じゃないんです。もはや趣味みたいな感じですかね。ふふ」
エルナはフランツを見上げて、片手を口元にあてて控えめに笑った。
「……貴族に生まれながら、こんなことが趣味だなんておかしな人ですね」
「そうかもしれません。でも、ほかに趣味も得意なこともありませんので」
 自虐気味にそう言うと、エルナはまた大量の洗濯物の残りを片付け始めた。鼻歌を歌って作業をこなすエルナを見て、フランツは彼女を〝甘やかされてきた伯爵令嬢〟とは到底思えなくなった。

「ルーイ様、今よろしいですか?」
「ああフランツか。入れ」
 その日の夜、フランツはルードヴィヒの執務室を訪ねた。ルードヴィヒはここ三日ほど王宮を留守にしており、つい先ほど帰還したばかりだ。
「離宮に三日も滞在するなどめずらしいですね」
「引継ぎ事項が多くてな。本来ならあと二日かかるところを、なんとか早めに切り上げて帰って来た。……あそこに長居すると息が詰まる」
 ルードヴィヒは着ていたジャケットを荒めに脱ぎ捨てる。床に落ちる前に、フランツがなんとかキャッチした。
 ルードヴィヒの父である国王陛下は、数年前から離宮に移り住み、数名の使用人と王妃だけという閉鎖的な生活を送っている。国王として長年働いて疲れ切ったのだと本人は言っているが、ルードヴィヒにはただの言い訳にしか聞こえなかった。昔から親子関係が良好とはいえなかったこともあり、父親が自分と暮らすことから逃げたとしか思えない。
 しかし、関係上顔を合わせることは多い。特に最近は、王位継承権のことでルードヴィヒは頻繁に離宮へ足を運んでいる。そのたびに、彼は機嫌悪そうな顔をして王宮へ戻ってくるのだ。
「陛下と王妃様は、王太子妃のお披露目会には顔を出してくれると?」
「さあな。日時は伝えたがなにも言われなかった。俺の妻が誰かなんて興味ないんだろうな。まぁ、俺自身も興味がないのだから、父上からしたらどうでもよくて当たり前か」
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