竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
「どんな事情があれ、あいつは期間限定の王太子妃だ。それに、誰にだって言いたくないことはあるだろう。家庭の事情に首を突っ込む行為はしたくない」
「……そうですね。わかりました。申し訳ございません。出過ぎた真似を」
 フランツはルードヴィヒの気持ちを察してか、すぐさま一歩下がって頭を下げた。そんなフランツをルードヴィヒが宥める。
「気にするな。それより、俺はあと少しここで仕事がある。お前は先に休んでいろ」
「はい。お気遣いありがとうございます。失礼いたします」
 頭を下げたままフランツはそう言うと、執務室をあとにした。
「エルナ。・アーレント。……見ているとイライラするほど、綺麗な瞳をしていたな」
ひとりになった部屋で、ルードヴィヒはエルナのことを思い出しぽつりと呟く。
美しいものが嫌いだと告げた瞬間に大きく揺れた、彼女のアクアマリンのような上品な瞳は、しっかりとルードヴィヒの記憶の中に刻まれていた。

 次の日。
「エルナ様、今からお疲れのルードヴィヒ様のところへお茶を持っていってください」
やっとだだっ広い王宮内の構造を把握し、使われていない部屋の片づけに励んでいたエルナに、フランツが突然そう告げる。
「えぇっ!? 私が!?」
 エルナが驚きの声を上げると同時に、部屋に溜まっていた埃が舞った。フランツは右手で口を抑え、左手で埃を掃いながら無言で頷く。
「ルードヴィヒ様とは、一週間は顔を合わさないと聞いておりましたが……」
「予定は急に変わるものです。そこは臨機応変に対応できないと、王太子妃として務まりませんよ」
(フランツさんったら、都合のいいときだけ王太子妃って単語を使うんだから……)
 喉元まで迫っていた心の声をなんとか飲み込む。エルナは掃除を中断をすると、ひとまず着替えて手を洗い、フランツの待つ厨房へと急いだ。
「フランツさん、ルードヴィヒ様の好みのお茶を教えていただけますか? 香りとか、味とか……苦手なものもあると思うので」
 並べられた茶葉を見比べて、エルナはフランツに問いかける。これはエルナにとって、ルードヴィヒのことを知るいい機会だった。お気に入りのお茶を淹れて、ちょっとでも自身の評価を上げることに繋がればと思ったのだ。
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