竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 別に、ルードヴィヒの好意を得たいわけではない。ただ、条約破棄を考え直してもらうためには、生贄の自分がルードヴィヒとヘンデルを繋ぐ架け橋にならなくてはならない。
「ああ。それはエルナ様のセンスにすべてお任せいたします」
「センス……? じゃあせめて、苦手なものだけでも教えて――」
「いいえ。私からはなにもお教えすることはありません。ほら、そのほうがおもしろいじゃないですか。好みのお茶を出して喜ばれるのも、苦手なお茶を出して嫌な顔をされるのも一興です」
 けらけらと悪気なく笑うフランツを見て、エルナは「なにもおもしろくない」と呆れてため息をついた。
「フランツさんは本当に悪趣味ですね」
「失礼ですね。あなたのためを思って言ってるんですよ。たとえ茶葉選びを間違ってしまっても、それが学びに繋がるからよいではないですか」
 エルナはフランツと話しているうちに、物は言いようだなということを学んだ。
「では、三十分以内にお茶とお菓子を用意してルードヴィヒ様のいる執務室まで運んでくださいね。それが終わったら次の仕事を伝えるので、片付けついでに厨房集合にしておきましょうか」
「え。フランツさん、お茶を淹れ終わるまで一緒にいてくれないんですか?」
「私は忙しいんです。言ったでしょう。今回はあなたのセンスに〝すべて〟お任せいたしますと」
 この人、本当になんのヒントもくれる気がないんだ……とエルナは悟った。
「おっと。私も仕事をしなければ。それではエルナ様、愛する旦那様のために美味しいお茶を淹れてくださいね」
 フランツはエルナを置いて、颯爽と厨房から去って行った。
「……愛する旦那様って。出て行くときまで嫌味を言うんだから」
 ふたりに愛などないことを、知っているくせに。
 エルナは何十種類もある茶葉を漁りながら、フランツへの不満を漏らしていた――ら。
「あ、言い忘れたことが」
「っ!」
 ひょこりとフランツが厨房の扉から顔を出す。エルナの心臓が一瞬止まりかけた。
「お茶を持っていく際、〝エルナ様が淹れた〟というのは黙っておいてくださいね。私に頼まれて持ってきたと、そう言ってください」
「はあ。わかりました」
「よろしくお願いいたします」
 それだけ言って、フランツは今度こそ本当に厨房から去って行った。
「さてと……どうしましょう」
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