竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 好みがわからないため、無難な茶葉を選んだほうがよいのかと思い、エルナはダージリンとアッサムの茶葉を手に取る。しかし、これじゃあフランツがわざわざエルナにお茶を淹れさせる意味があったといえるのだろうか。
「フランツさんはたぶん、私オリジナルのお茶を淹れることを期待しているのよね」
 敢えてヒントを与えてくれなかったのも、逆に言えばヒントがエルナのオリジナルの邪魔になると思ったからかもしれない。
「……そうだ!」
 エルナはあることに閃き、持っていた二種類の茶葉を元に戻した。そして走って自室に戻ると、持ってきていた荷物から小さな紙袋を取り出す。
 中には、アーレントの屋敷でよく母が飲んでいた茶葉と、そのお茶にぴったりの焼き菓子が入っている。茶葉はヘーゼルナッツの香りづけがされたフレーバーティー。淹れると甘い香りが広がって、心が落ち着くと母が言っていた。
焼き菓子は香りに合わせたチョコレート。ヘンデルの田舎の商店街で買い、気に入って何度も店に通った。手作りの皮つきオレンジジャムが混ぜ込まれており、甘さの中に酸味もある、こちらもほっとする一品だ。
 この紅茶なら、何度も屋敷で淹れたことがあるから失敗することはない。
 エルナは厨房に戻りお茶を淹れると、ティーワゴンに必要なものを乗せて執務室まで速足で向かった。メイド服でもない、高そうな生地の綺麗めなワンピースを着たエルナが使用人と同じことをしている姿は、今ではすっかり王宮内で見慣れた光景となっていた。

「ルードヴィヒ様、いらっしゃいますでしょうか」
 執務室に到着し、エルナは扉をノックして声をかける。
 中から返事はないのでもう一度。すると。「……勝手に入ってこい」というルードヴィヒの低い声が聞こえてきた。
「失礼します」
 ティーワゴンが扉に当たらないよう気を付けながら、エルナは執務室の中へと入る。
「フランツさんに頼まれて、お茶とお菓子を持ってきました。休憩のお供にどうぞ」
「……そこに置いといてくれ。終わったら下がっていいぞ」
「かしこまりました」
 書類から目を離すことがないまま、ルードヴィヒはエルナに言った。エルナもまた、そんなルードヴィヒの態度を当たり前のように受け入れて、手際よくテーブルに紅茶とお菓子を置いた。
(ルードヴィヒ様のお気に召しますように!)
 心の中でエルナは強く念じる。
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