竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
「うるさい。茶化しにきたなら出て行け」
「おっと。調子に乗りすぎました。すみません。仕事に戻ります」
 怒られる前に、フランツは執務室を去ることにした。正直、エルナは王宮にいるどのメイドよりも仕事ができる。竜人は体力的には人間より優れているが、細かい作業や物覚えに関しては少々劣るところがある。
そのせいか、みるみると仕事を吸収していくエルナを見ていると、フランツのほうがエルナを手放すことを惜しくなっていた。もちろん、自身の仕事量が減るからというのがいちばんの理由である。
「エルナ様、合格です!」
「はい?」
 厨房に戻るなり、フランツは待機していたエルナの両手を握って褒め称えた。
「ルードヴィヒ様は私が淹れた紅茶以外はまずいと言ってほとんど飲まないのですが、エルナ様のは美味しいと言っておられました! これでひとつ私の仕事が減ります。これからもぜひ、妻として私のかわりに美味しい紅茶を淹れてあげてくださいね」
「……! それはよかったですっ」
 なんだかフランツの仕事をひとつ押し付けられた気もしたが、エルナは少しでもルードヴィヒと接する時間を確保できたことをラッキーに思った。
まだまだ彼のことを知るには時間が足らない。エルナはもっと美味しい紅茶を淹れて、ルードヴィヒを虜にし、離縁後もこの王宮に置いてもらえないものかと考えたりした。

 その後、王太子妃お披露目会までの残り二日間も、エルナは伯爵家で身に着けた〝雑用スキル〟を惜しみなく披露していた。披露というより、フランツに言われたことをただやっていただけに過ぎないが。
「エルナ様、こちらの汚れは落とせますでしょうか? 何度やっても頑固な油汚れで……」
「ちょっと見せて。……ああ。これならクレンジングオイルで落とせるかも。オイルと歯ブラシを用意してもらえる?」
「はい! すぐに!」
 今では、長年王宮に仕えていた侍女までもがエルナを頼る始末だ。エルナの世話係をしていた侍女も、いつの間にかエルナの後輩のようになっている。侍女が言うに、エルナは自分のことはなんでも一通りこなしてしまうと。その報告をフランツづてに聞いて、ルードヴィヒはますますエルナのことで調子を狂わされることになった。
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