竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
「あなたたち、まさか王太子妃様にご無礼を働いたんじゃないでしょうね?」
「えっ……そ、それは……」
 令嬢のひとりがどもる。
「なんてこと! このお方はルードヴィヒ様の妻なのよ! 自分たちの立場をわきまえなさい!」
「し、しかしレーネ様! 彼女はヘンデルからきた奴隷――」
「言い訳無用! これ以上騒ぎを起こすなら、親衛隊リーダーとしてこのことをルードヴィヒ様に報告させていただきます!」
「すっ、すみませんでしたぁーっ!」
 レーネに脅されて、令嬢たちはダッシュでテラスから逃げていった。レーネは腕を組んだまま、去りゆく背中に舌を出して挑発を続けている。
 令嬢たちからすれば、レーネがエルナを庇う理由がまるでわからなかった。レーネのルードヴィヒ好きは社交界では有名だ。一緒になってエルナをいじめたっておかしくない。それなのに――。
(なんで? この子、ルードヴィヒ様が好きなのでは?)
 なぜ庇ってくれたのか。エルナの頭の中は、ハテナマークでいっぱいになる。
「あっ、あの……ご、ご無事ですか! エルナ様!」
「えっ?」
 レーネはエルナのほうを振り向いて言う。その表情と言葉遣いはどこかぎこちない。
「はい。あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」
 エルナがお礼を言うと、レーネの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。先ほどの威勢はどこへいったのやら――もはや面影すらない。
「よかったです。……はっ! 申し遅れました。わたくしはレーネ・リーチェルと申します。よろしくお願いいたしますっ」
 数秒間、レーネはぽーっとした顔でエルナを見つめていたが、我に返り慌てて自己紹介をした。
「レーネ様。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
エルナは既にレーネのことをフランツから聞いていたが、初めて聞いたかのような反応を返す。
「わたくしに〝様〟も敬語もいりませんっ! どうか、もっとフランクに呼んでいただけたらなと……」
「じゃあ……レーネ?」
「はいっ! そちらでお願いいたします!」
 真ん丸な瞳をさらに丸くさせて、レーネは瞳を輝かせた。
「あの、レーネはどうして私を助けてくれたの?」
 レーネと会ったのは、正真正銘今日が初めてのことだ。助けてもらう理由がない。
(……もしかして、私が仮にもルードヴィヒ様の妻だから?)
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