竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
エルナは勝手にこの先へ進んでいいのか躊躇したものの、〝もし不法侵入者や泥棒だったら〟という考えを捨てきれず、悩んだ末扉に手をかけた。昔、伯爵家で深夜に泥棒が侵入した経験もあったため、エルナはこの現状を放っておけなかったのだ。
 地下へ続く扉はずっしりと重く、エルナは一度ランタンを床に置いて、両手を使いなんとか開けることに成功した。長く続く階段を、一段、また一段を下りていく。
(地下室といえば、どこも冷たくて寒くて、あんまりいい場所じゃないイメージがあったけど――この王宮の地下室はずいぶんと綺麗ね)
 階段を下りながら、エルナは周りを見渡した。一階や二階と同じように、地下も全体的に青と白を基調として作られている。少し肌寒さはあるが、さほど気にならない。
(呻き声がどんどん近くなってるわ……)
 階段を下りた先には、アーチ型の開口部があった。追い続けた呻き声の主は、どうやらこの先にいるようだ。エルナの額に、緊張から汗がにじんだ。生唾を飲み込んで、アーチをくぐった瞬間――。
 ピカッ!
 雷光で、薄暗い地下室が一瞬だけ大きく照らされた。エルナはその一瞬壁に映った、大きな黒い影を見逃さなかった。
 今のは怪物か? いや、あれは……。
「竜?」
 エルナは呟く。
 本でしか見たことのない、伝説の生き物。黒い影は、その竜の姿によく似ていた。そして予想通り、開口部をくぐった先にあるだだっ広い部屋の中には、巨大な銀色の竜の姿があった。呻き声の主は、この竜だった。
「っ!」
 後ずさりひゅっと息を吸い込むと、エルナは頭が真っ白になった。おもわず、手に持っていたランタンを落としてしまう。
(竜人は竜が進化して人型になった種族、本来の竜はずっと昔に絶滅しているはずじゃ……)
 シェーンベルグは、内密に地下で祖先である竜を囲っていたのか。
 ランタンの音でエルナの存在に気づいた竜は、ぎょろりと目を動かすと、エルナを思い切り睨みつけて威嚇し始めた。だが、攻撃をしてくる気配は感じられない。
 エルナは不思議なことに、目の前にいる竜に驚きはあったが恐怖はなかった。睨みつけてくる瞳をじっと見つめ返すと、エルナはそっと口を開く。
「……あなたも、今日のお披露目会に呼ばれていたの?」
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