竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
「……あ。そろそろここへ来て一時間は経つわね。私、そろそろ部屋に戻るわ」
 地下室の秘密をエルナが知ってしまったことがバレると、面倒なことになりそうだ。エルナはまたこっそり遊びにくる約束をして、今日は竜とお別れすることにした。
エルナが部屋から出ていくのを、竜はただじっと見つめていた。表情は変わらないが、エルナに対しての警戒心は最初よりだいぶなくなったように思える。
一日でふたりの友達ができたエルナは、部屋に戻ると、今度こそぐっすり眠りについた。

「エルナ様! 儀式のスケジュールが急遽変更となりましたので、そろそろお目覚めください!」
 次の日の朝。エルナは予定されていた起床時間より三時間ほど早く起こされた。せっかくいい夢を見ていたのに……と思いつつ、エルナは夢から現実へと戻ってくる。
侍女が言うには、十五時から予定されていた泉の儀式が、天候の影響で急遽正午からに変更となったようだ。現在の時刻は七時。エルナは今から全身を清め、化粧を施し、儀式用の衣装に着替えて、竜人による人力車に乗って泉までの道のりを辿っていかなければならない。
 急いで用意された朝食を食べ終えると、エルナは数名の侍女たちに囲まれる。完全に身を委ねながら、エルナは初夜の日のことを思い出した。あの日も身体を洗って化粧をして着替えて―と、今日とそっくりな流れだった。
 バタバタと忙しない時間が続く。でも、エルナの頭の中は昨夜のことでいっぱいだった。本物の竜と時間を共にしたことを思い出すと、未だに胸がどきどきする。今日も早く会えたらいいなと、エルナは起きてすぐにも関わらず、夜がくることを待ち望んでいた。
 そうこうしているうちに準備が整う。真っ白で清楚感の漂うワンピースに、同じ色のシースルーのベールを被せられたエルナは、王宮を出て人力車へ乗った。ルードヴィヒとフランツは先に泉へ行っているようで、今朝から顔を合わせていない。
 泉までの道のりには何人もの国民がずらっと道を開けて両側に並んでおり、儀式へ向かう加護持ちのエルナを興味深そうに見つめていた。昨日のお披露目会に来られなかった平民たちも、エルナをひとめ見るためにたくさん集まっていた。
(儀式が終わると、明日からどんな生活が待ってるんだろう)
 好奇の目、蔑んだ目、哀れんだ目――あらゆる視線を浴びながら、エルナは思った。
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