竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 儀式が終われば、いわばエルナは〝用無し〟となる。王宮内だけでなく、外部の竜人たちからも奴隷扱いされるのだろうか。今のように、様付けで呼ばれることもなくなって、部屋も冷たい床の硬いベッドに変えられるのか。
 どうであれ、今より待遇が悪くなるのは間違いないだろうとエルナは思うが、とにかく今は儀式を成功させることだけを考えようと気を引き締める。
 人力車で王宮を発って、一時間半が経った。やっと、エルナは王都を下った森の中にある泉に到着した。
 森には既にたくさんのギャラリーが集まっており、ルードヴィヒとフランツの姿もあった。エルナは人力車から降りると、泉の中心部までゆっくりと足を進める。
「エルナお姉さまぁー! 今日もお美しいですわーっ!」
 歩いている途中、エルナに向かってそう叫ぶ声が聞こえた。声のほうに目をやると、レーネがギャラリーの中で必死に背伸びをして、エルナに大きく手を振っていた。
 そんなレーネを見て、エルナはおもわず笑みがこぼれる。控えめに手を振り返すと、エルナはまた前を向いて歩き始めた。
(レーネのおかげで緊張がほぐれたわ。後でお礼を言わなくっちゃ)
 エルナは指定された場所で足を止めると、目の前に広がる大きな泉を見てはっとした。
(なんて綺麗な青……シェーンベルグの水の色は、こんなにも綺麗なのね)
 呼吸を忘れるほど美しい青色がゆらゆらと揺れている光景を見て、エルナは自分の心まで洗われた気分になった。初めて王宮の中に足を踏み入れたときと同じような衝撃だ。
 エルナは今見た景色を頭に浮かべたまま、静かに目を閉じた。儀式をするタイミングはエルナに任されているため、特に合図などはない。周りの人たちは、黙ってエルナの動向を窺っていた。
 目を開けて、すぅっと息を吐くと、エルナはベールを脱いで両手を空に掲げた。エルナの手に聖なる魔力が集中し、光の球体が浮かび上がる。淡い色がまじりあった、オーロラのような光だ。
 エルナは巧みに光を操りながら舞い、手のひらから腕全体へ、腕全体から全身へと広げていく。
(ここへ来るのが決まってから三日間、みっちり魔法の復習をして、感覚を取り戻しておいてよかった)
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