竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
 うまく魔力をコントロールできていることに、エルナは安心を覚える。そして最大限まで魔力を引き出したところで、全身の光を泉全体へと伝染させていった。泉は光に包まれているあいだ、色を青からオーロラへと変える。神秘的な輝きと美しさに、ギャラリーたちは揃って息を呑んだ。
「何度見ても、この光景はたまらんなぁ……」 
 ギャラリーの中にいた、ひとりの老人の呟きがエルナの耳に届いた。
(歴代の王太子妃たちも、みんなこうやって役目を果たしてきたのね)
 その後、彼女たちがこの国でどんな結末を迎えたか、エルナには知る由もない。だけど、どんな気持ちでここで儀式を行っていたか――少しだけ、わかる気がした。
「……終わりました」
 泉に神の加護を授け、聖水へと変える儀式を終えたエルナは、振り返ってルードヴィヒのほうを見てそう言った。
「できるだけ長く神の加護が続くよう、ありったけの魔力を込めました」
「……そうか」
 ルードヴィヒはお礼も言わず、ただひとことそう答えると、エルナから目線を逸らした。……彼の考えを覆すことができなければ、加護を与える役目を務めるのは自分で最後になる。そのことを知っていたエルナは、敢えてこのような言い回しをした。その意図は、ルードヴィヒにも伝わったことだろう。
「儀式は終わりです。せっかくなので、お集まりいただいた皆様に聖水を浴びていただきたいのですが――今日から三日間、シェーンベルグは昨日に続き嵐に見舞われるようです。現在は収まっておりますが、これからひどくなるようなので、今日は速やかにお帰りいただくのが懸命かと思います」
 物腰柔らかく、フランツがギャラリーたちに今日は帰るよう伝わる。加護を得たばかりの水に触れたくて集まっていた者も多かったため、不満の声が上がった。本来なら、これから国民たちが泉の中に入ったりして、聖水を堪能する時間が設けられていたのだろう。
「聖水は逃げません。嵐が収まったらぜひ、好きなだけ泉の水を使用してください」
 フランツはその場にいる人たちをなんとか納得させて、儀式は終了となった。
「エルナお姉様、舞っている姿も、とってもお美しかったですわっ!」
 帰り際、レーネがエルナに興奮気味に声をかける。周りはエルナと仲良くしているレーネを見てぎょっとしていた。竜人たちからすると、役目を終えたエルナに媚びる必要がないからだ。
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