竜王太子の生贄花嫁を拝命しましたが、殿下がなぜか溺愛モードです!?~一年後に離縁って言ったじゃないですか!~
(やっぱり――またアーレント伯爵家からだわ)
 前回の手紙が届いてから、まだ一週間ほどしか経っていないのに。急ぎの用事でもあるのかと思い封を開け手紙を読んでみる。しかし、冒頭からどうでもいい話しか書かれていない。エルナは前回と同じく途中で読むのをやめて、手紙を引き出しにしまった。
(今日も夜は地下室に行く予定だし、少し仮眠しておこうっと)
 自由時間の過ごし方を知らないエルナは、深夜の竜との密会のために、今は寝ておくことにした。そして予定通り、みんなが寝静まった深夜、エルナは昨夜と同じくランタンを持って地下室へと向かった。
「こんばんは。今日も来ちゃった」
 昨日と同じ場所に、やっぱり竜はいた。エルナはまた会えたことがうれしくて、自然と声が弾んだ。
「今日はね、儀式をしてきたの。とっても大事な儀式よ。あなたは知ってる?」
 竜は首を縦にも横にも振らない。
「シェーンベルグの泉を聖水にする儀式なんだけど――それは、ヘンデル出身の加護持ちの女性しかできないことなの。私はね、この儀式のためにここに呼ばれたのよ。……それが終わっちゃった。私、どうなるんだろう」
 見えない未来への不安を、竜にだけは言える。エルナは竜が自分の言葉を理解しているのかわからなかったため、逆にどんな話もしやすかった。理解されていなくとも、吐き出す場所がほしかったのかもしれない。
「私の結婚相手のルードヴィヒ様はね、私の国では物凄い悪評だったのよ。冷徹で血も涙もない無慈悲な男。結婚したらおわりだって」
「……ウゥ」
 ルードヴィヒの話をすると、竜が低い鳴き声を上げた。初めて声に出して反応を示されて、エルナは言葉が伝わったのかと思った。
「あなた、ルードヴィヒ様を知っているの?」
 竜は首を傾げる。知らないのか、やっぱり言葉が伝わっていないのか。
「……私、これからはルードヴィヒ様の指示を聞いてなにをするか決められるんだけど……どうなるか、まったくわからないの。噂通りでいけば酷い扱いを受けるんだと思う。でも――本当にひどい人なのか、私にはまだわからない」
ルードヴィヒと共にした時間が、如何せん少なすぎる。エルナはまだ、ルードヴィヒのことがわからないままだ。
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